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『海の底』(有川ひろ)を読んで『図書館戦争』は2倍楽しめる。

HAKOMACHI 一日一冊 7/31冊目


一つの苦難を乗り越える、という王道ストーリー

はじめまして、せいたです。
神保町の棚貸し本屋で、ハコマチ(HAKOMACHI)という人棚書店の店主をしています。
7月の31日間の限定出店なので、31冊置いて、31冊レビューを書こう!
と思い立ち、やっと1週間を迎えました。

そして、実は、嬉しいことに、2冊目の本が売れました!
感動です。もう、31日間1冊も売れないのではないかと危惧していただけに、
1週間で2冊の購入があったのは本当に嬉しい限りです。
というわけで、昨日は記念すべき購入1冊目、をご紹介したわけですが、
本日は2冊目のご紹介になります。

ベタ甘、で知られる有名作家さんの作品。
え、そこ?となるチョイスかもしれませんが、そこはハコマチクオリティ。
ぜひ、ご覧になっていってください。

『海の底』 有川ひろ

憎みきれない悪役、嫌なやつを書かせたら天才

有名な作品を上げたらキリがない有川ひろさん。
ベタ甘、と言われるほど王道ルートのラブコメものや働く若者の姿など、わかりやすくスカッとする展開を丁寧に書き上げている印象です。
僕が、特にすごいなと思うのは、ストーリーの途中で立ちはだかる登場人物たち。
絶妙に小物で、ちゃんと胸糞悪く、ストーリー序盤にしっかりとしたモヤモヤ感をもたらす曲者揃いなのです。
そこまでやるか、みたいなことはするけど、絶妙にリアルにも存在しそうな感じ。それがまた絶妙な隠し味になって、感動のラストを盛り立てます。
もちろん、それを技術として書いているのがすごいわけではありません。ちゃんとそうしたいわば「敵役」の皆さんにも、事情がある、と思わせるのが有川文学のすごいところ。
勧善懲悪のヒーロー作品のように、悪者をやっつけたら解決、ではないのがリアルなのです。その人にも、家庭があり、立場があり、事情がある、だからこそ主人公達も真っ向からの鉄拳制裁、実力行使には及びません。フィクションだからと、そこを思い切ってショートカットしたいところを堪えて、しっかりとした現実的な処世術で現実を生ききっていく主人公達。たとえ嫌な相手でも、相手のことまで考えることが、自分のことを守ることにつながる。そんな動作がリアルで、クレバーでカッコよく映るのです。

自衛隊三部作、最後の一作

塩の街、空の中、海の底。
陸海空それぞれの自衛隊隊員を主人公に描かれる三部作。
それぞれに違ったテーマ設定と未知なるものとの歩み寄り、折り合いをつけていく人間の強さが描かれます。
有川さんの代表作で有名なのが、図書館戦争シリーズですが、海の底にはそこに繋がっていくであろう要素が散りばめられていて、図書館戦争シリーズファンなら同様に必見の王道ストーリーとなっています。

バディものと王子様設定

バディもののかっこよさ

僕は、僕たちは、バディものが好きである。
シャーロックホームズとその友ワトソンに始まり、
ドラえもんとのび太、犀川教授と西之園さん、バッテリーや相棒もその名の通りバディを題材にしている。
毎年映画になるたびに話題沸騰のコナンくんだって、服部と一緒に事件を解決するときが一番盛り上がるくらいだ。
僕たちはバディものが好きなのだ。

『図書館戦争』には、その背中の預け合いが熱いバディ関係がいくつか登場する。
堂上と小牧、手塚と郁。戦闘シーンでの彼らの連携は本当に見事で、文章上の会話劇で、目の前に映画のシーンが浮かぶよう。
『海の底』では、夏木と冬原の実習幹部コンビが、時に猛々しく、時にきめ細やかなそれぞれの強みを活かして、得体の知れない水中生物達から、子どもたちを守り抜いていく。そんなストーリーになっています。

2人のリーダーがいること

リーダーが2人いて、その2人が価値観は共有しながらも違った強みを持っていることは、その組織の幅を広げます。
有川ひろ作品で多いのは、リーダータイプとマネジメントタイプが絶妙なバランスでタッグを組んでいること。
堂上や夏原はリーダータイプで、ルールや規律に厳しく、堅実なタイプ。小牧と冬原はマネジメントタイプで全体を俯瞰して痒いところまで丁寧に手を行き届かせる。その二つのタイプが、小隊をミッションの成功へと、導いていきます。

僕も体験として、この組み合わせが完成していた時は、強かったなと。
高校の文化祭の時のバンドパートの時も、大学の大学祭実行委員会の時も、背中を預けられる存在がいたから、自分がフルに強みに特化できていたなと。
社会人になってから、その感覚をずっと忘れていたような気がして、あの連帯感をまた味わいたくて、再読をしたりしています。

まずは自分から心を開いて、言葉を尽くして、背中を預けるところから。

成長してから再開するパターン

図書館戦争でひとしきり作内でいじられる堂上の王子様設定はあまりにも有名ですが、本作にも似たような仕掛けが存在します。
形を変えてはいますが、同じような構図が現れると、お!このパターンか!と嬉しくなってしまいます。
ぜひ、最後まで読んで、あの「まさか、、、?」をみなさんにも味わってほしいです。
そして、ハマったらぜひ、同じ有川さん作の『クジラの彼』読んでみてください。本作のスピンオフ作品が2作、収録されています。

あと、『図書館戦争』シリーズについては、僕が社会人になって時間が経つまで、『別冊図書館戦争Ⅱ』に手を出せなかった話で数千字かけるのですが、それはまたの機会に。





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