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『オンリー・ミー』(三谷幸喜)、私だけを。

HAKOMACHI 一日一冊 8/31冊目


風邪で学校をお休みした日、あなたは何をしていましたか?

風邪をひけば読書、咳をしても読書。

僕がまとまった読書をするタイミングの一つに、病にふせっている時、というのがあります。
幼稚園、小学校と割と元気いっぱいだった僕は、少々の熱があっても学校には行きたがるタイプでした。友達に会うのがすごい楽しみでもあったし、楽しみにしていた授業もあったし、もちろん嫌な教科もありましたが、休むことによってより差が開くことの方を苦痛と感じていた僕は、風邪でも普通に登校し、風邪であることをいかにバレないかを振る舞ったものです。
それでも、どうしても辛い時や家にいるように言われるときはあって、そのので木は仕方なく、ベッドに入って過ごしました。ですが、基本的に体力は有り余っています。そうすると何かやりたくなって、でもやることはなくて、普段は読まない、母親の本棚にある本を読むしか無かった。今から思うと、家の至る所に本が平積みにされていた我が家に、感謝しかありません。

『オンリー・ミー』三谷幸喜

「くだらなさ」はくだらないことではない

そのとき手に取ったのは、三谷幸喜さんのエッセイ。
映画『有頂天ホテル』に感動した私は、1作目の『ラジヲの時間』、2作目の「みんなの家、を見て完全にハマってしまい、母が昔にとっていた『やっぱり猫が好き』にハマりビデオテープを何回も使って再生させては、見返していました。
そんなときだったので、母が積んでいた本の中から、この本を選んだのも不思議ではありませんでした。

その時最初に読んだエッセイ、今でも忘れられません。
なんでも、三谷さんが風邪をひいて病院に行った時のこと。
夜の外来に並んでいると、なかなか順番が回ってこない。
そんな中、急患の患者さんが運ばれてきて、病院はもう大変な状態に。
世界で一番辛いように思えていた風邪の症状も、なんだかなんでも無かったかのように思えてしまい、「僕は大丈夫です」といって、帰ってくるお話。
病気で辛い時の対処法は、自分よりも大変な人を知ることかもしれない、そんなふうに締めくくられていました。
表面的にはくだらないお話として、面白おかしく書いているのですが、それよりも多くの気づきがあった物語でした。

当時はちょうど風邪をひいていた自分の境遇とマッチして、印象的だったのですが、大学生の時や社会人になって、ことあるごとにこの章のことが思い出されました。
大学祭実行委員会の時、2年生で一つの部署のリーダーだった僕は、本番当日1ヶ月前に行われていた通称”ドラフト”に参加していました。
ドラフトでは、まさに野球のドラフトの会議のように、各部署のシフトに人員をアサインしていくという業務で、やはり大学祭とはいえつくるのは人、どこにどんな人財を登用していくのか、議論は1週末の昼夜を通して、行われます。
金曜日の夜から、講義棟に籠って土日の夜まで作業します。
「今日はこのくらいにしよっか」
当時の委員長がそう言うと、僕たちは一気に解放されたようになって、近くのお弁当屋さんで弁当を買い、部室等に逃げ込むのでした。そして、深夜で真っ暗になった部室棟。一番奥にある実行委員会室には明かりが灯っているのです。そして、部室内では委員たちが黙々と当日に向けての準備を進めている。ああ、この人たちに支えられて、大学祭が成り立っている、この人たちが主役で、この人たちを僕は火輝かせるために仕事をしているんだと、改めて感じたのを覚えています。自分が頑張ったな、と思ったら、それよりも頑張っている人を見つけると、健全に頑張れる。そんなふうに感じました。

文章を書くことが好き、に気づかせてくれた先生

この本を読んでいたことによるエピソードはもう一つあります。
小学4年生の時、新しいクラスになった僕は、自己紹介カードの欄に「好きな本」とあり、そこに「オンリー・ミー」と書きました。
もちろん同級生は誰も知りません。
それを見た担任の先生は、ちょっと呆れ笑いをしながら、「三谷幸喜の?」といったのです。
当時の僕は、達観しているところがあり4年生ながらにして大人の落ち着き、と父兄から騒がれていました。親友の母親に付けられたあだ名は「副担」。修学旅行の写真も、旅行にはしゃぐ児童というよりは、まるで引率かのような佇まいで写っているのでした。
そんな僕を知っていた先生は、さすがだね、とでもいうのか、私も三谷幸喜さん好きだよ、くらいのテンションで、そう聞いてきたのでした。
僕は小学校の時、1人の先生ごとに一つやそれ以上の能力を伸ばしていただいたのですが、その先生には、文章を書く力に気づかせていただきました。
きっと、この本を読んで、楽しく文章を書く人の背中を見ていたからでしょう。書くことが楽しくなっていて、夢中で買いているうちに、ある時、この先生から言われたのです。
「せいたくんって、作文が上手だよね」
そのころは意識もしていませんでいた。ですが、先生に言われて、意識するとどんどん周りの人にも褒められる回数が増えてきて、嬉しくなりました。

今思うとこの本に出会ったことから、始まっていたのかもしれません。
みなさんには、世界に見てもらいたい自分の一面はありますか?
そんなときは、三谷さんのように、言い放ってみてはどうでしょう。
見てください、オンリー・ミー、私だけを。


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