見出し画像

ほろ苦コーヒー

彼はコーヒーが好きだった。
朝にはいつもコーヒー。
深めに挽いたブラックコーヒー。
それがいつもの日課だった。

彼は私の分まで入れてくれた。
初めの頃は苦いコーヒーは苦手だと伝えたことがあった。

「ちょっとした苦味がいいんだよ」

彼は言う。
彼の言葉に納得したのか、
私もコーヒーを飲むことが日課になっていった。

そんな彼と上手くいかなくなった。
原因はほんの些細な事だったように思う。
それが積み重なって、段々と距離を置くようになった。
日課だったはずのコーヒーも飲まなくなった。

もう前のようには戻れない気がした。
なぜそう思うのか分からない。
ただ、それだけははっきりと分かってしまっていた。

そんな時にふとコーヒーを飲みたくなった。
自分で、1人で初めてコーヒーを入れた。
彼がよく飲んでたコーヒーと同じものを。

苦かった。

それだけで充分な答えだった。

私は彼に電話をかけた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?