見出し画像

【僕が病院で気づいたこと】「退院」と「転院」の言葉の違いで患者は不安になる。

 僕は、2回目の抗がん剤治療のために1週間入院していた。
毎回4人部屋に入院している。まぁ、個室は贅沢だし・・・

 僕は、入り口左側のベッド。向い側のベッドには、僕と同じ中咽頭癌の患者が先に入院していた。年齢は、65歳過ぎかな? 僕と同じくらいに見えた。

 気になったのは、喉の放射線治療の跡が酷くなっていた。見てすぐ分かるくらいに色素沈着(赤みや黒ずみ)が酷く、辛そうだった。また僕と同じように胃瘻も造設していた。

 喉の手術をしたのか、喉仏の所に痰を吸入する器具も見て取れた。頻繁にナースコールを推して看護師さんを呼んでいる。痰がキレずに苦しそうだ。話す言葉も痰が絡むのかかすれている。

同じ中咽頭癌だとすると僕もいずれ・・・と思うと怖くなる。

 食事も口から取れていないようで、僕と同じようにエンシュアを胃瘻から入れている。僕は、自力で入れられる体力があったが、向い側の患者さんは、自分ではエンシュアを入れる体力も無いのか、いつも看護師さんが胃瘻の準備をしていた。

 翌日、主治医が来て「○○さん、今週末で退院しましょう」と声かけしている。僕は、「え〜っ、こんな状態で退院できるのかな?」と余計な心配をした。

 主治医と入れ替わりに看護師さんが来て「今週末に退院ですね。○○の準備もしましょう。△△の準備もしましょうね」と声かけしている。

 僕は、ようやく理解できてきた。主治医や看護師さんは「退院」という言葉を使っているが、この病院では、もう治療することが適切ではないので、自宅近くの病院に転院してもらうという事だった。

 その夜、消灯後にその患者さんがナースコールをした。深夜担当の看護師が来てその患者さんの言葉を丁寧に聞いていた。

 その患者さんは、「主治医も日勤の看護師さんも退院しましょうと言っているが、自分としては、前より体調が悪くなっていると思っている。食事も出来ないし、痰が絡んで呼吸も苦しい。話すことも容易ではなくなっている。体力も極端に落ちてきた」

 深夜担当の看護師は、「そうだね・・・、辛いね」とその患者さんの言葉を真剣に受け止めている。その患者は、続けた。「本当は、退院じゃなくて、この病院では、もう治療しないから、別の病院に行って欲しいと言うことだよね」と。

「それは、退院ではない。転院と言って欲しかった」

 「退院とは、病気がよくなったときに使う言葉だよ。だから、退院という言葉を聞く度に、おかしいと思った。いいことを言ってこの病院から追い出すように聞こえたよ。ものすごく不安だった」と。

 看護師さんは、「そうだったの・・・、ごめんなさいね。主治医も嘘をつく気持ちでは無く、つい退院という言葉を使ったのだと思いますよ。分かってあげられなくて、本当にごめんなさいね」と素直に謝っていた。

 この会話を聞いていて、僕も目頭が熱くなっていた。明日は我が身ということと、「退院」と「転院」という言葉が、患者にとってこんなに不安になることなんだと共感した。

 その患者さんは、不安な気持ちで夜を過ごすことが出来ないので、ナールコールをしたのだと思う。深夜担当の看護師さんは、その患者さんの気持ちを察して、素直に話を聞き、患者さんに寄り添って親身になってくれた。

 カーテン越しの会話だったから、その看護師さんの姿や名前は分からない。

やっぱり看護師さんって素晴らしい仕事だなとあらためて思った

この時から看護師さんの仕事は、カウンセリングであり、サービスでもあると思った。無料だというサービスではなく「人のために気を配って尽くす」という意味のサービスのことだ。

 その夜は、色々考えてしまって、なかなか眠れなかったのを覚えている。


がんになってから、「お布施をすると気持ちが変わる」ことに気がつきました。現在「認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ」に毎月定額寄付をしています。いただいたサポートは、この寄付に充当させて頂きます。サポートよろしくお願い致します。