かかみがはら航空宇宙博物館に行った(2回目)
先日岐阜県各務原市にあるかかみがはら航空宇宙博物館に訪れた。ここに来るのはこれで2回目なのだが、その時よりも航空機への興味が高まっていた為か遥かに良い体験となった。
その感想や展示物の紹介を前回のそれと比較しつつ書いていこう。
屋外展示
入口から入るとまずは屋外展示の4機が出迎えてくれる。前回はUS-1が補修作業中で見られなかったので、この時点で大きな違いがある。
また、岐阜基地の隣にある博物館なので自衛隊の機体がよく通るのだが、一部のT-4は明らかにこの博物館の方を向いて旋回している様を見られる。屋外展示の機体が目印にちょうどいいのか、それともファンサービスの一環か。恐らくどちらもだろう。航空祭でもないのに機体がよく見える様なコースを飛んでくれるのはファンとして嬉しい限りだ。
思わぬ光景にテンションが上がる中、展示機を見ていく事にした。
一番手前にあるV-107から始めよう。前回も今回も、ヘリコプターへの興味は固定翼機へのそれと違って若干薄いのだが、今回はここに来る直前に富山でこの機体の改修型を見たばかりだったのが幸いし、それとの違いを比較できたからかこれだけでも結構面白かった。
隣にはYS-11。ここに来る前日にあいち航空ミュージアムに展示されている自衛隊で要人輸送機として運用された機体を見ていたので、これもまた同じ機体でも塗装が異なるだけでここまで雰囲気が変わって見える物かと感心した。
今回初めて見るUS-1。やはり四発機は大きくて迫力がある。救難飛行艇だからかとても目立つ色合いだ。コクピットから主翼付け根にかけての独特のラインが特徴的。艇体や着陸脚の細部、救難用ロープを間近で見られるのは貴重な体験だろう。
屋外展示のトリを飾るのはP-2J。こちらは前回から違いはないはずだ。あろうことか前回はフラップが出ている事にも気づかなかった可能性がある。このフラップが出ているというのは、後述するがこの博物館のテーマの1つでもあるのにそれを無視していたのはだいぶ節穴としか思えない。一応前回は航空博物館に来るのはほぼ初めてだったと言い訳もできるが、我ながらどうかと思う。
屋外展示の機体は入館した後に入れる展望台から機体後部を一目で見られるようになっているのだが、これさえも前回間違いなく利用していない。本当に何考えてたんだ。
入館する前から前回とは全然違う体験になりそうだと期待しつつ中へ。入館料は800円だがこれでもめちゃくちゃ安いと思う。屋外の機体だけでも十分元が取れるレベルだ。
屋内展示:航空機編
入館するとすぐ乙式一型偵察機(サルムソン2A2)の復元機が展示されている。復元機というだけあり、現存していた胴体や取扱説明書を参考に改めて作り直した貴重な物だ。各種動翼やエンジンのシャッターも稼働するし、胴体や主翼も当時と同じ製法で作られている、いわば現代に蘇った機体と言っても過言ではないだろう。
こんな凄まじい展示物であるにも関わらず、前回はどうせ模型だろとまともに見ていなかった。多分複葉機に対する侮りもあったんだろうが。我事ながら言葉も出ない。色々見て回った経験が生きたとかそれ以前の問題だと思う。
次の部屋には飛燕二型の実機が展示されている。前回はこれ目当てに来たような物なので、これに関してはしっかり覚えていた。何度見ても独特の金属光沢や滑らかな機首が美しく、展示室の雰囲気と相まって美術館の展示のような雰囲気すら感じる。
この部屋には飛燕二型のエンジンであるハ140を始めとしたエンジンやコクピットの計器、木製増槽、零戦の試作機である十二試艦戦の実物大模型なども展示されている。見た目はいかにも模型といった雰囲気だが、色々な所にある二一型や五二型ではない所にこだわりを感じられる。
この部屋を出ると広々とした展示スペースに大量の航空機が展示されているフロアに出る。前回と明確に異なる点として、展示物にF-4EJ改が追加されている。
全ての機体を紹介していても冗長なので、特に興味深かった物だけに絞ることにする。
まずは高揚力装置の試験機としてサーブ 91B サフィールを改造したX1G1だ。日本が航空機の研究を再開してすぐの1957年に改造された機体で、STOL(短距離離着陸)に必要な高揚力装置の試験機として運用された。得られたデータはその後の開発に大きく貢献したそうだ。
この博物館には他にも高揚力装置やSTOL、VTOL(垂直離着陸)の試験機が多数展示されており、その為か展示テーマの1つとしてフラップ(高揚力装置の一種)を展開した状態で展示されている機体も多い。先述のP-2Jもその一例だ。
次は実験用の飛行艇であるUF-XSに触れよう。アメリカの双発飛行艇HU-16を改造した物で、離着水能力の向上を狙った改造が為されている。幸運な事に、台湾に行った際原型機であるHU-16も見ていたのだが、それと比較してもとても原型機だとは思えないほどあらゆる所が改造されている。一応コクピット周りから内側のエンジンにかけては面影が残っているか。この機体が得たデータもまた外に展示されていたUS-1を筆頭にした飛行艇の開発に大きく貢献している。
機体を観察していると、興味深い物を見つけた。原型機のHU-16はJATO(ジェットエンジンによる離陸補助装置)を装備しているのだが、UF-XSにもHU-16の搭載場所と似たような位置にJATOの文字があるのだ。UF-XSにJATOを装備したという話は自分が軽く調べた分には見当たらなかったが、装備する予定があったのだろうか?迂闊にもその部分の写真を撮り損ねたので自分の見間違いの線も否定できないのが辛い。別の何かを表す略語の可能性もあるし。
続いてもSTOL実験機の飛鳥だ。短距離離着陸性能の向上と騒音低下を狙う実験機で、C-1輸送機を改造している。この機体が開発された頃、日本の地方空港での運用にはSTOL能力が必須だと考えられており、騒音低下に焦点が当たっているのはそのためらしい。四発に増やされ、翼の上に移設されたエンジンがとても目立つ。
試験機は他にもまだまだあるのだが、キリがないのでこの辺にして実用機のF-4EJ改に触れよう。F-4EJ改は旧式化したF-4EJの性能を補う為改造された機体で、1971年のEJ輸入から2021年の全機退役までの長い期間活躍していた。展示されている機体はEJ改の試改修1号機であり、自衛隊を最後に退役したEJ改でもある431号機で、ラストフライト時のマーキングがある。EJないしEJ改は最近退役した為か様々な場所で展示されているが、特徴的な歴史を持つこの機体を狙って見に行く価値はあるだろう。
ここからは展示されているヘリコプターの一部を紹介しよう。まずはOH-6Jのローターを新形式に変更した実験機だ。ローターが赤く塗られているのが印象的。
ヘリのローターヘッド部のみの展示もあり、ローター形式を変更するメリットが分かりやすくなっている。
ヘリコプターは他にも日本初の国際共同開発ヘリコプターであるBK117や自衛隊のOH-1のモックアップなど様々な物が展示されていた。ヘリコプターへの知識が乏しい自分が説明しようとしてもしょうがないので存在の紹介だけしておこう。前回もヘリコプターは半ば流し見だったのだが、今回もそれに近くなってしまったのは惜しまれる。次行く時はヘリコプター周りの知識をもっと知っておくべきだろう。
機体以外にもエンジンや航空機の仕組みの解説プレートなどの展示も充実している。一部のエンジンは機構を稼働させて仕組みを理解できるようになっていた。また、展示されている機体の上面図と簡単な解説、そして動翼の位置が示されているパネルもあった。QRコードも記載されており、公式アプリでこれを読み取ることでスマホでも解説が見られる。
大分省略しつつ航空機の展示を解説してきたが、これでやっと半分と言ったところだ。何せここは航空"宇宙"博物館だから、宇宙関連の展示もこれと同等以上のボリュームがある。次からはそれらを紹介しよう。
屋内展示:宇宙編
最初は隕石に含まれる鉄を加工して作った刀剣である天鉄刀だ。昔の日本でも天鉄刀を作った事を示す文献があったようだが、その時代の加工技術で地球産の鉱石と成分が異なる隕鉄を加工できたのかが疑問視されていた。その謎を解き明かす為、当時の技術だけを用いて刀を製造する実験を行い、成功したのが展示されている物だとの事。解説板でも触れられている通り、隕石に含まれる成分によって刀に独特の白い紋様が浮かんでおり、普通の刀とは明らかに異なる雰囲気がある。大名などがこういった刀を所有している事はかなりのステータスになったに違いない。
次は実寸代のH-Ⅱロケットの先端部だ。見ての通りひたすら大きい。一階の床から二階の天井まで届く程で、実際はこれに各種ブースター等が取り付けられる事を考えるとちょっとした電波塔を飛ばしているようにも感じられる。
その先には日本やアメリカ、ソ連のロケットの模型が置いてあった。特にペンシルロケットの模型が印象に残っている。周りの模型が1/20スケールの模型の中これだけ実寸大模型で、本当に鉛筆位の小ささだ。ペンシルロケットの名前だけは知っていたが、他のロケットと比べて小さいから名付けられたのだと思い込んでおり、まさか文字通り鉛筆サイズのロケットだとは思っていなかったので大変驚いた。
後はスペースXの模型もあった。あのイーロン・マスクのロケットである。こっちでの業績の偉大さは分かったが、それに注力してTwitterをどうにかすんのはいい加減やめて欲しいなとも強く思った。
ロケットで運搬する人工衛星についての展示と解説も当然ある。人工衛星と聞いて思い浮かべる大きなものから、ルービックキューブくらいの大きさの超小型人工衛星まで様々な物が展示されていた。
国際宇宙ステーションの日本が管理する実験棟の「きぼう」の実寸模型の展示もされていた。恐らくここの展示の目玉の一つだろう。内部もある程度再現されており、あらゆる分野の実験機材が搭載されている事がわかる。入ってみると想像より広く、無重力である事を除けば普通の実験室と大差ない環境のように感じた。解説だけでなく、実際に体感できる展示が多いのもここのいい所だ。
はやぶさ2の模型やプロジェクトの解説もあった。波瀾万丈の経過で一代ブームとなった感のある初代はやぶさと比べるとほとんど話題にならなかった気がする2代目だが、順調に任務をこなして無事帰還したんだからもう少し盛り上がってもよかったとも思う。それとも自分の記憶がアレなだけでちゃんと盛り上がっていたんだろうか。展示スペースはかなり広めに取ってあった。
最近は日本の月探査プロジェクト「SLIM」が成功して話題だが、これらの資料もその内展示されるのだろうか、探査に使われたSORA-Qは民間で普通に売ってるから実機展示がやりやすそうだし全国の宇宙博物館で展示される例が増えそうだな、と考えながら回っていたら既に解説パネルが設けられていた。仕事が早い。売店でもSORA-Qが販売されていた辺り元々計画していたのだろう。
興味深い展示として、宇宙に送った後地球に帰ってきた試料などの展示もいくらかあった。日本を代表する宇宙博物館として宇宙関連の各所との関係が深いからこそ出来る展示だろう。
売店など
館内の展示を概ね見終わったので売店へ。前回来た時は飛燕のグッズがいくらかあったはずだがほとんど見られなくなり、その代わりにF-4EJ改のグッズが増えていた。先述の通りSORA-Qも販売されている。その他にも資料として有用な各種書籍やDVD、手軽に買えるペンやハンカチなどの小物などがあり、一通りの需要を満たせるような品揃えだった。
全てを見終わって、名残惜しいが後にする事にした。バスが来るまでは結構時間があったので、屋外展示の機体を眺めて時間を潰しているとジェット機の凄まじい音がした。立地的に音自体は珍しくもないのだが、よく離陸しているT-4とは全然違う音だったので空を見てみるとF-15が離陸していた。しばらく直進した後かなりの高レートで上昇し去っていったが、運が良ければこういった光景が見られるのもここの売りの一つだろう。
まとめ
色々国内の博物館を見て回って来たが、やはり航空博物館としてはここがトップクラスだろう。それを再確認する旅行だった。展示機体、解説の丁寧さ、体験コーナーの多さ、施設自体の利便性など全てが高レベルで非の打ち所がない。飛行機ファンなら一度は行くべき場所の一つだと断言できる。
宇宙博物館としてもかなり充実しているのが察せられる。自分が宇宙関連の知識が乏しいので展示物の面白さをだいぶ見落としているだろう事は心残りだ。次行く時はある程度宇宙絡みの物も調べておこうと思う。
そして何より、博物館というのは一度行っただけで魅力が消滅する様な所ではなく、自分の興味や知識が更新されればされる程より楽しめる素晴らしい所だと身をもって理解できたのは最大の収穫だ。前回来た時の記憶を辿ると随分ずさんな見方をしていたのがよく分かるが、それに気づけたのも今まで自分が色々な所へ行き、様々な情報に触れて来たからだろう。
この調子ならば3回目の来館は更に面白い物になるに違いないし、今回の来館も反省点ばかり見えるようになるのだろう。それを楽しめるままでいたい物だ。そういう訳で当分ここに来るつもりは無いが、どこかのタイミングでまた行くだろう。その時はまた別の展示物が増えているだろうし、それらを見た自分が何を思うのかもまた気になるから。
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