小松航空プラザに行こう
石川県小松市、小松空港のすぐ近くに日本海側唯一の航空博物館である小松航空プラザがある。今回はここについて紹介していこう。
この施設は他の航空博物館と比べて、実機の展示数では一歩譲るが展示物との距離が近く、より細かい所まで見学できる点がポイントだ。また、入場料が無料なのも大きなメリット。
屋外には対潜哨戒ヘリコプターのHSS-2と練習機のKM-2が展示されている。
HSS-2の方は機内に入ってコクピットにも座れる。キャビンの意外な広さや、金属むき出しの床の感じ、コクピットに並ぶ数々の計器など見どころがいっぱい。
また、各所に残る注意書きも読んでいくと興味深い。特に、折り畳んだローターを支えるポールも、展示用に作ったその辺の棒というわけでなくちゃんと管理番号を与えられた機材で、支持すべき場所まで指定されている事を示すパネルが面白かった。恐らく、実際に運用されていた頃には付けられていなかった物で、展示に際して埋め込まれたのだろう。展示物だからこそ見られる物の一つと言える。
KM-2は、特に立ち入り禁止区域も設定されておらず、機体に触れられる距離まで近づけるようになっている。博物館の類でここまで近づけるのはなかなか珍しいと思う。そのお陰で、プロペラの付け根や翼の下にも書かれている注意書きなど他の所ではなかなか見られない物が見られる。屋内展示場にはこの機体をベースに改造したT-3も展示されており、見比べるのも面白いだろう。
建物の中に入る。エントランスにはアクロバット機のピッツS-2Bが展示されている。スポンサー企業のロゴが大量に貼ってあり、紅白でよく目立ついかにもアクロ機らしい塗装が新鮮。手前には子供が乗って記念撮影出来る用に作られたミニ模型がある。後述するが、この施設はかなり子供を意識した展示が多い。かと言って、決して子供騙しという訳では無いのがここの面白い所の一つだ。
この奥にはジャイロプレーンも展示されている。一般的な航空機だけでなくこういった変わり種も置いてあってバリエーション豊かだ。
平日は受付なども必要なく、気楽に見て回れる。
順路に従って2階から見ていこう。2階にはまず、飛行機の出現と技術の発展を解説するコーナーがある。こういったコーナーとしては、国内初の人力飛行機である玉虫型飛行器の実寸模型が珍しいだろうか。
ここの特徴の一つが、複葉機からステルス機まで、航空機の模型の展示が極めて充実している事だ。地域の模型ファンが博物館に寄贈・貸与した物で、日本機やアメリカ機はもちろん、戦中ソ連機やイタリア機などこの手の所では珍しい物まで、マニアの中での大体の有名どころは軍用か民間かを問わず置いてある。博物館での縮尺模型の展示は実機展示と比べるとどうしても見劣りするのは否めないが、これだけ並ぶと流石に壮観だ。世界にはどんな航空機があったのか、どのような進化を遂げたのかを視覚的に体感するには適した展示だろう。
来館者に航空機の姿を見せたいという考えが特に強いのか、他の博物館で撮影した実機の写真まである。当時の資料写真や、その施設の前身となる施設に展示されていた頃の写真なら珍しい話でもないが、ここまで割り切ったやり方は他では見た覚えがない。
この展示室の先には、航空機の原理を解説する実験キットと、戦中の小松海軍航空基地を解説するコーナーがあった。元々金沢にも飛行場があったのだが、疎開基地として小松に飛行場が新設されたようだ。結局金沢の飛行場は廃止され今では面影がほとんど無いが、小松は現在でも自衛隊と民間の共同空港として運用されているのは歴史の妙か。ここには戦中機の部品の展示もされている。特に銀河の翼端は貴重な物だ。
古い物の展示もあれば新しい物の展示もある。2000年代に入ってから計画が始まった先端技術実証機の開発に用いられた、飛行試験が出来る1/5スケールモデルだ。どちらかというと各務原にありそうな物だが。この機材を使って損傷した舵の機能を他の舵が補うシステムなどを試験したらしい。
新しい物には、こちらは比較的最近まで現役だった実機の一部もある。政府専用機のB-747、その貴賓室の展示だ。広々とした座席やソファー、机、モニターが並びとても飛行機の中とは思えない。VIP機もいくらか見てきたが、年代が新しいからかこれが一番設備が充実しているように思う。付近には政府専用機についての解説パネルが何枚もあった。
博物館に付きもののフライトシミュレーターもある。有料だが、ヘリ、セスナ、ジャンボジェット、ビジネスジェット、戦闘機、エントランスに展示されているピッツをモデルにしたアクロバット機とやたら種類が多い。筐体はだいぶ古めだが、やってみた感じだとしっかりとしたシミュレーターに思えた。機体毎にスロットルや操縦桿などの操作系統も異なるし、もしかしたら実際のパイロットスクールで使っていた物も混じっているかもしれない。
2階の展示は概ね見終わったので実機展示場のある1階へ向かう。その途中に民間ジェットの小さな模型がびっしりと展示されているコーナーがあった。これを全て1人のマニアが作ったらしい。その数なんと2500点。しかも全部塗装などが異なる機体らしい。それだけ様々な機体が運用された事も、それらの模型を1人で作り上げた事も凄まじい。
このコーナーの片隅には模型ファンが趣味で作った模型の展示もあった。趣味なだけあってマニアックなシチュエーションモデルや、戦車などの展示もあった。意外と誰かが趣味で作った模型を見られる場所は少ない。たまには博物館の番外編としてそういうコーナーがあってもいいのかもしれない。
2階から1階へ降りる階段の踊り場にはパラグライダーの実物と写真が展示されている。他にもパラグライダースクールの宣伝や、ヘリコプターでの遊覧飛行の宣伝も貼ってあった。空港に隣接しているからだろうか?同じく空港に隣接しているあいち航空ミュージアムでは見かけた覚えがないが。
ようやく1階だ。1階には実機展示場の他に小松空港の解説コーナーなどがある。まずはそちらに触れよう。
先に少し触れたが、小松空港は航空自衛隊と民間が共用する飛行場だ。その為解説コーナーでは民間空港である小松空港と航空自衛隊小松基地がどちらも紹介されている。どちらかといえば小松空港の解説の方が充実しているか。
他にも空港の保安ゲートを再現した展示や、税関の注意喚起ポスター、ファーストクラスで使われる食器など様々な展示があった。
1階にはYS-11のフライトシミュレーターもある。このシミュレーターはパイロットが実際に教育課程で使った物らしい。
このシミュレーターを体験するには料金として500円と、エントランスの窓口での別途予約が必要だ。シミュレーターには解説係の人がいて、操作を教えてくれたり機体のコントロールが怪しくなるとフォローをしたりしてくれる。
実機のコクピットを再現した物の中でやるシミュレーターは面白かったのだが、なにより大変だった。機体が全然思い通りに動かず、コースは外れっぱなしだし、着陸でも滑走路に上手く入れず、いざ地面に降りても止まりきれずにその辺の森に突っ込むと散々。やっぱりゲームとは全然違う。
シミュレーターをやってる時の写真も撮ってもらえる。思い出作りには最適だろう。
他にもYS-11の計器がいくつか展示されていた。
階段の裏手には航空管制のシミュレーターもあった。こちらは体験していないが、プログラムはともかく機材に関しては実際のシミュレーターを転用した物の可能性が高い。
いよいよ実機展示場に向かうのだが、そことは違う隅っこの方にベル47が所在なさげに展示されていた。コクピットにも入れるようになっている。実機展示場のスペースがカツカツというわけでもないのに変な置かれ方していて微妙に扱いが悪い。
やっと実機展示場だ。
小松航空プラザの最大の特徴ともいえる、実機の横に設置されている大きな子供向け遊具が目立つ。飛行機の隣で遊べるのは子供にとってどんな気分なんだろう。少なくとも飛行機との精神的な距離感は縮まりそうだ。
ここには合計3回来ているが、その全てで子供が遊んでない日はなかった。うち一回は幼稚園か小学校かの課外活動らしき集団まで来ていた。この辺に住む子供にとってはいい遊び場だろう。それに、旅行中の家族連れが空港での乗り継ぎの間時間を潰すのにも向いている。
一部では子供の遊具なんか取っ払って屋外展示の機体をしまえというような意見もあるようだが、地域の娯楽施設としては今の形の方が適切だと思う。
順路通りに進むと一番最初に目に入るのが、南極探査に用いられたピラタス PC-6 ポーターの展示だ。南極での運用の為か真っ赤な塗装をされていたり、車輪にソリが取り付けられている点が目立つ。黄色の長い棒は地形調査用のアンテナらしい。全体的に無骨で実用一辺倒な見た目をしているが、全体的に赤をベースとして主翼上部だけ黒と白が使われる塗装のおかげか妙なヒロイックさがある、不思議な飛行機だ。
ここには自衛隊機もいくらか展示されている。観測ヘリコプターのOH-6は陸上自衛隊の機体で、卵みたいな胴体部が特徴的だ。これも屋外のHSS-2と同じくローターが畳まれた状態で展示されている。
ジェット練習機のT-33Aもある。この機体や、後で紹介するF-104J、T-2はキャノピーが開かれており、コクピットの詳細を見られるようになっている。コクピットの中には実際に運用していた頃の張り紙が残されていて興味深い。
次はF-104Jだ。
F-104Jの展示自体は正直そこまで珍しい物でもないのだが、コクピットの状態が非常に面白い。大半の計器に用途がどのような物か説明する紙が貼られているのだが、展示用に改めて貼ったのではなくて実際の運用時にも貼られていた物の可能性がある。
全体的にシールの質感が古いのと、説明書きの表記に古臭い書き方があるから、というのが主な理由だ。それと、解説の為であるならばT-33の計器にも貼ってある方が自然でもある。向こうは博物館への納入の際に運用時には描かれていなかったエンブレムを描いたのだから、親切心で解説を貼るくらいしてもおかしくないのに特にそのような様子はなく、むしろコクピットに関してはそこまで手を加えていないように見える。
この機体の番号を調べてみると、F-104Jの中でも比較的早い段階に納入された機体のようだ。これは推測に過ぎないが、機種転換の円滑化を図る為にパイロットが計器に貼っていたシールが今でも残されているのだろう。この機体が辿ってきた道のりが言外に語られているようで、見ていて大変興味深い。
また、背もたれの後ろには沖縄護国神社のお守りも付けられている。今では博物館で羽根を休めているが、新鋭機として最前線に立っていた頃のような姿をありありと残している様はとても魅力的だ。
上でも書いたが、F-104Jは色んなところにあるし、機種だけでいえば貴重という訳でもない。はっきり言って自分も見るまでは今まで散々見たし、と舐めていた。でも、ここまで実際に運用されていた頃の空気感が残っている展示は他では見られなかった。この機体を見るだけでもここに来る価値は十二分にあるので、ぜひ来館して欲しい。
ブルーインパルスで運用されていたT-2も展示されている。立ち入り禁止区域もあってないような物で、機体の細部を細かく観察できるのがポイント。その他にも、エンジン区画の一部は外板を取り外して内部が確認できるような展示をされていたり、特徴的な部品に解説メモを貼ったりして興味を惹くような工夫がたくさんある。
実機ではないが珍しい物もある。F-2の機種部と増槽、ASM-1のモックアップで、木目調が残ったまま展示されている。
展示されている民間機の中では、Do 28もまた目立つ飛行機だ。海外では軍用連絡機として運用している国もあるが、国内ではこの機体ただ1機のみが民間に導入され、ネパールの航空写真撮影に派遣された後民間航空会社を経て登録抹消、紆余曲折の末に小松に展示される事になった。短距離離着陸能力を重視した機体で、エンジンの配置や主翼前縁が全面高揚力装置になっている点など見どころが多い。機首のヒマラヤの字体なども味があって、見れば見るほど面白い機体だ。
民間と自衛隊の初頭練習機も肩を並べて展示されている。キャノピー周りやプロペラの数など、ざっくり見る分にはだいぶ異なる機体だが、どちらも用途が同じなせいか主翼などの形状はかなり似通っている。現地で見比べて共通点を探すのも楽しみのひとつになるはずだ。
展示を一通り見終わると売店がある。こういう博物館定番の飛行機グッズはもちろん、自衛隊Tシャツやワッペン、レーションなどのミリタリ系グッズも充実。もし満足出来ないならば隣の小松空港にも行こう。品揃えがほとんど被っていない売店がもう一つあるので、何か欲しい物が見つかるはずだ。
小松空港に行く理由はもう一つある。3階の展望台からは小松基地が一望出来るようになっていて、各種民間機やF-15、UH-60Jの離着陸を見られるし、うまくいけばアグレッサーのF-15も見られるかもしれない。小松空港の駐車場は60分間無料なので、車で来ていてもそこまで心配はいらない。時間に余裕があれば眺めてみよう。
いかがだろうか。日本海側唯一の航空博物館であり、自衛隊の航空基地も近い立地故に飛んでいる航空機と飾られている航空機のどちらもじっくり楽しめるいい場所だと思う。
先に多少触れたが、ネットで小松航空プラザの評判を軽く調べてみると、子供騙しの遊具を撤去して展示機数を増やせというような意見ばかり目立つ。気持ちは大いに分かるが、個人的にはこれに反対したい。幼い頃から飛行機に慣れ親しんできた子供たちが将来航空機に関わる人生を送る可能性は、そうでない子供と比べればそれなりに高くなるだろうと思っているからだ。少なくとも、それを期待する事自体はそこまで夢見がちな話でもないだろう。こう考えると、ある意味では自分が見てきたこの手の場所の中では一番未来を考えている場所だといえるかもしれない。
話が逸れたが、航空博物館としてだけ考えても展示物との距離の近さは特筆に値するだろう。機体の真横まで近づいて観察して初めて気づくことも多い。ちょうど空港のそばにある事だし、飛行機を使って金沢観光をしようと考えているのならついでに覗いてみてはいかがだろうか。もちろん陸路でもいい。金沢駅から空港までの直通バスがあるし、車で向かう場合でも道が分かりやすいからあまり苦労はしないはずだ。自信を持っておすすめする。
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