試合の状況は288パターンある   野球の観方③ ~『スポーツライティング講座』講義録より~

試合の状況から次のプレーを予測する

試合の状況は、何パターンくらいあるか、ご存知ですか?

ボールカウントだけで0-0から3-2まで12通り。
アウトカウントは、①無死②一死③二死の3通り。
走者の状況は、①走者なし②一塁③二塁④三塁⑤一、二塁⑥一、三塁
⑦二、三塁⑧満塁 の8通り。
これだけで12×3×8=288通りあります。

1回表から9回裏まで、イニングによっても違う。点差まで考えると、もう、数えきれませんね(笑)。

試合では、その一球が投じられる前に、今がどういう状況なのかを常に把握しておいてください。
そのためには、スコアブックをちゃんとつけておく。
もちろん、スコアをつけないとダメということではありません。
取材をするときは、つけていたほうが便利だろうという話です。

状況を把握して、今からどんなことが起こる可能性があるのか、予測する。つまり、仮説を立てて、一球ごとに目やカメラを向けていきます。

たとえば7回、8回になって自分が取材している側のチームが8点、9点勝っていたら、守備の時はそんなにたいしたことはおきないでしょう。

でも、それが1-0の試合だったら一瞬、目を離したうちに同点の本塁打を浴びるかもしれない。

そうすると、その1球の球速が何キロだったのか、球種が直球だったのか変化球だったのか、わからなくなってしまいます。それでは試合後に取材するときに、都合が悪いですよね。


仮説を立てれば、選手のしぐさや表情を見逃さない

例えば、2013年春の東京六大学リーグ戦の法大対明大戦。
勝ち点4同士で最終カードを迎えた両校の直接対決は、1勝1敗1分けで4回戦にもつれこみました。

2対2の同点で迎えた8回裏、明大の攻撃で、二死二塁の場面。
ここは、勝負を分ける場面です。ヒットで本塁上のクロスプレーが起きるかもしれない。内野ゴロの悪送球でも1点が入ってしまうかもしれない。

このとき、僕は二塁手の河合完治(現トヨタ自動車)のところに打球が飛ぶんじゃないかと仮説を立てて見ていました。

彼は中京大中京高3夏の甲子園決勝で、「捕れば終わり」というファールフライを見失ってしまい、そこから逆襲を受けて5失点した。
最後にサードライナーが河合君のところに飛んできて、それを捕ったから勝って、ようやく試合が終わった。
でも、それが10センチ上だったら? 
―あの打球が、もしもゴロだったら? 僕は河合選手にそう聞いたことがありました。彼は「またエラーしていたかもしれない」と言っていた。あの夏の決勝の最後のプレーは、それほどの「運命の1プレー」だった。
河合選手にはそういった背景があったから、きっとこういう場面でまた彼のところに打球が飛ぶんじゃないかーーと考えたんです。

結果は、石井元選手の三ゴロを三塁手が大きく弾く間に、二塁走者の岡大海(現千葉ロッテ)が生還。これが決勝点となって、明大が勝ち点5で優勝を決めました。法大は8連勝で明大戦を迎え、1回戦で勝利。優勝まであと1勝に迫りながら、逃してしまいました。

天皇杯の行方を左右したこの場面。その直後も、僕は河合選手を見ていました。すると、河合選手はすぐにエラーした三塁手に声をかけていた。
試合後に聞きました、「なんて言ってたの?」と。
そうしたら、「『まだ次の回があるぞ』って言いました」と答えてくれました。

ああいう場面で彼はエラーした選手にどう接するのか、どんな言葉をかけるのか。天皇杯を左右する緊迫した場面で、彼のところに打球が飛ぶ――そんな仮説を立てていたことが、その後の取材につながりました。

結局は、1ヶ所しか見られない。
仮に、その試合で投手の石田健大(現DeNA)について書くと決めていたら、三塁手がエラーした後の彼の表情を見ていたと思います。

仮説を立てることで、何を見るか、覚悟を決める。その選択した「一つ」のことを、試合後の取材に生かしてください。
                          (次回へ続く)


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