試合の流れが変わる8つの瞬間 野球の観方④~『スポーツライティング講座』講義録より~

野球では、試合の流れが変わる瞬間が8パターンあります。

先発投手の投球数が100球前後になると試合は動く

野球の試合のなかでもっとも流れがかわるポイントは、先発投手の球数が100球にかかる前後です。
「投手交代の目安は100球」というのはよく聞く話ですよね。では、それはなぜなのか?それは、100球くらいに投げると、今までどおりに投げられない変化が投手に起きるからです。

まずは握力。
140キロのボールをストライクゾーンに投げようと思うとき、物理的に指3本(人差し指、中指、親指)だけで25キロの重さを支えられないといけない。握力がなくなると、球の抑えが利かなくなって、ボールが高めに浮きます。そこで低めに投げようとして力を加減するから、いい球ではなくなる。

投手は投げるとき、親指でボールを支えていますが、握力がなくなると親指どんどん横にズレてしまうんです。
そうなると、ボールが高めに抜けるようになる。

「投手って100球で疲れるの? あんな四六時中走って鍛えているのに」――そう思う人もいるかもしれません。でも、問題は体のスタミナではなく、握力のスタミナなんです。

また、心のスタミナの問題もあります。
東京六大学のエース格の投手なら、練習で300球投げろと言われたら、投げられると思います。それがいいことかどうかは別にして。
でも、試合で1球目から300球目まで同じように投げられる投手はいない。100球くらいから(投手によって前後しますから、あくまで目安ですが)、それまでと同じようには投げられなくなってくる。

100球に到達するのは、6回か7回あたり。
だいたい1イニング15球だとして、7回で105球ですね。

だから、この7回以降に点が入りやすい。だから、7回の攻撃を「ラッキーセブン」と呼ぶ……という説もあるようです。

プロ野球の場合は後からどんどんいい投手が出てくるけど、アマチュアは一番いい投手が先発することが多い。先発投手よりも抑えられる確率が高い投手が控えているチームは少ないから、7回で100球を超えても「がんばれ」「頼む!」でしかない。

だから、試合の流れでいうと、100球が一つの分岐点になる。
ということは、取材するときは投手が何球投げているのか、スコアブックをつけながら数えておかなければならないわけです。

そのほかに試合の流れが変わる瞬間をどんどん挙げていきます。

2つ目は四球。特にイニングの先頭バッターへの四球。先頭打者を出すと試合が動くことが多いですね。

3つ目はエラーで走者が出たとき

4つ目は“アウト要員”を塁に出したとき。アウト要員とは、その試合でアウトにとれる確率が高そうな打者のことです。
例えば、打率が1割台とかで、簡単にアウトに取れるような打者。左投手を苦手としている左打者。「外角のスライダーは空振りする」というような大きな欠点がある打者。
そういう打者に打たれたら「おっと」となって、試合の流れが変わるということです。

たまにベンチにいる仲間もびっくりするようなヒットってあるじゃないですか? 「あいつが打ったよ!」みたいな。リーグ戦終盤なのに、今季初ヒットとか。そういう選手はアウト要員だから、塁に出してはいけないということですね。ヒットは百歩譲ってあるとしても、簡単に四球を出しているようでは最悪です。

5つ目は、投手が初めて走者を出したとき
投手が走者を出すと、セットポジションに変わります。
走者がいなくてもセットポジションで投げる投手もいますが、そういう投手でも走者が出ればクイックで投げることになります。

技術の話になりますが、足を上げて投げるときと、上げないで投げるときでは、下半身は今までと違って小さく早く動かしますが、上半身は同じです。そうすると、上半身の動きと下半身の動きのタイミングが変わる。だから、クイックで投げ始めた時には、プロの投手でも「投げミス」が起こりやすい。

細かく言うと、踏み出す足が地面に着いたとき、投げる手はトップの位置にないといけないんだけど、クイックで投げて下半身だけ早く動かした分、手がトップの位置に間に合わないんです。

走者が出て急に崩れるのは、このことが原因のこともあります。もちろん、「走者出してしまった、どうしよう」という精神的な面にも原因はありますが。

例えばパーフェクトピッチングをしていた投手が、7回に初ヒットを打たれてから、急に逆転されるようなことが記憶にありませんか?
それは、今まで走者が出ていないから、1球もクイックで投げていなかったので、クイックになったときにミスが起こって、球に力が伝わらなくて棒球になって打たれてしまう。そして、動き出した試合の流れが加速してしまうんです。

6つ目は選手が交代したとき。特に投手が交代したとき。

7つ目が点を取った後のイニング

8つ目は仕掛けた作戦が失敗したとき。ヒットエンドランを仕掛けてライナーで併殺されるとか、スクイズを失敗したときです。

なぜ流れが変わるのか?

こういう場面で、なぜ流れがかわるのか。
それは、誰かに、今までと違った心理が働くからです。

たとえば四球を出してしまった投手が「やばい」と思ったり、野手のエラーに対して「あいつエラーしやがって」と思ったり。
逆にエラーした選手は「うわ、エラーしちゃったよ」「もう飛んでこないでほしい」と思ったり。そんなことを思った選手に限って、また同じようにエラーを重ねてしまったり。
たとえば、ファーストがエラーした。次の打者が、送りバントをした。
ファーストは焦らずに一塁でアウトをとればいい場面なのに、自分のエラーを挽回しようと思って二塁に投げて、悪送球になってしまう……とか。

「なんとかしなきゃいけない」といった、これまでにない心理が働くから、余計に普段は出来ていることができなくなる。

試合のなかでこういう場面がきたら、「流れが変わるかも」と集中力のボリュームを上げて、見逃さないようにしてください。
                      
                        (次回へ続く)


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