なぜバッターは「3割打てば一流」なのか? 野球の観方⑤ ~『スポーツライティング講座』講義録より~

バッティングは0.2秒後を予測する動作

今度はピッチャーとバッターの対決に焦点を当てます。
実は、野球のバッティングっていうのは、ものすごく難しいことなんです。

140㌔の球がピッチャーの手元を離れてからバッターに届くまでどのくらい時間がかかるでしょうか。
ピッチャープレートからホームベースまでの距離は、18.44㍍です。僕の苦手な算数の問題なのですが、140㌔の球だと約0.47秒で到達します。
実際には、ピッチャーはもっと前(ホームベース寄り)で球を離すし、バッターが打つポイントはホームベース上ではないので、個人差も誤差も生じますが。

この約0.4秒は、ピッチャーが投げてからバッターのところに届くまでのこと。バッターが球を打とうと思ったら、もっと早く判断しなければいけません。

人間の目が球を見て認識するまで0.1秒かかります。そして、見た球に対して、「バットを振れ」という命令を下すのにさらに0.1秒かかります。ということは、見た瞬間から打つまでに0.2秒かかるわけです。

つまり、バッターはピッチャーの手から球が離れてから、約0.2秒後には「打つ」「打たない」という判断をして、「この辺にバットを出せ」と脳から指令を出して振らないと、間に合わないわけです。球が手元に来てからバットを振りだしたら、球を捉えたと思ったときには、球はもうミットに入っています。

だから、バッターは0.2秒後に球が到達するポイントを予測して、バットを振っているんです。そんな難しいことをしているわけです。

ちなみに、この打つか打たないかを判断するポイントのことを、野球解説者の広沢克実さんは「フォーカスゾーン」と呼んでいます。

さらに、球が到達するタイミングや場所が一定ではないという難しさが加わります。140㌔の球が来たかと思えば、110㌔ぐらいのカーブが来たり、130キロくらいのフォークボールが落ちたり、125キロくらいのスライダーが横に曲がったりする。バッターは大変ですよね。

もっといえば、ピッチャーによって球の質が違います。
同じ140㌔のストレートでも、回転数が多ければ多いほど、回転軸が地面と垂直に近ければ近いほど、球はホップします。このホップする球を俗に「伸びがある球」と言っているわけです。

実際にホップしているわけではありません。仮に球が無回転で、重力のみの影響を受けたときに到達する点からホップする(上方向に変化する)ということです。

試合を観ていて、「なんであんな高めのボール球を振っちゃうんだろう?」と思ったことがあるかもしれませんが、それは「予測した地点よりも球が上に来たから」なのです。

バッターはこうした難しいことをするために、日々努力を重ねています。1日1000スイングする選手もいます。それでも打てないことが多い。それだけ難しいことだから、「バッターは3割打てば一流」と言われるのです。

大学野球を取材するみなさんは、「バッターは本当に難しいことをやっているんだ」ということを知っておいてください。そのうえで「空振りした」と書くのと、知らないで「空振りした」と書くのでは、大きく意味が違ってきますよね。 
                           (次回に続く)

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