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詩集B(20代の頃に書いた作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、大学時代から20代の終わり頃にかけて書いた(今へと繋がるターニングポイントに当たる)詩作品の数々を、このマガジン内で無料… もっと読む
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#冬

詩 『曼珠沙華』

作:悠冴紀 赤い大地 血のような 炎のような 曼珠沙華が咲き誇る 鮮やかな赤 毒々しくも繊細で 雨ざらしの野に 凛と伸びる 曼珠沙華が萌える 混沌の記憶の中に 血のような 炎のような 一面の赤 ── 無彩色の季節を越え 今 再び 懐かしいような 初対面のような 野生の赤い曼珠沙華 私の歩む畦道に また かつてに増して鮮やかに 神秘的な赤い花一輪 ※ 2003年(当時26歳)の作品。 曼珠沙華とは、言わずと知れた彼岸花のことです。その翳のある妖艶な姿はしかし、思わ

詩『ひとり』

作:悠冴紀 私はやっぱり 「ひとり」が好きなんだなあ 今日もこのときを待っていた 街が 人々が 寝静まり 紺瑠璃の宇宙と 向き合う時間 静けさの中で 私は独り 果てしない自由を手に入れる 宇宙にそっと囁きかける 歌のような 詩のような 秘密の声を 時間の生まれる歪みを見つめ 惑星の生まれる揺らぎを知る 「ひとり」の時間そのものに酔いしれて 背筋に沿う清流の音を聴く これ以上の贅沢があるだろうか 夜の紺瑠璃 静寂のコンツェルト 宇宙との一体化 私の好きな 「ひ

詩 『カナダの冬』 (二十代前半の作品)

作:悠冴紀 深まっていく大空に カナダの様子を重ね見る ナイアガラ・オン・ザ・レイクの 白い小さな教会 ボウ川の水面 牧草地を流れる風 一人旅に出かけたい カナダの冬は どんなだろう バンフの町に積もる雪 ロブソン通りに灯る明かり コートの襟を立て 行き交う人々 親友たちと一緒に 眺めたい 暖かくなっていく地球上 底冷えの冬を忘れない国 凍りついても構わない あそこでなら 眠りたい あの国で *********** ※1999年(当時22歳)のときの作品

詩 『吐息に咲く白い花』

作:悠冴紀 大気をいたわりながら ゆっくりと 誰かと歩んだ幼い日のように 息をしてみて 見えるだろうか? そこに広がりゆく花の まばゆい白さ 雪よりも白い柔らかな花びらを 薔薇のごとくに しっとりと広げ 光散りばめながら 冬の静けさに霧散していく 永遠に似た一瞬の開花 そうだよ その花は 君の花 君の中に蘇った潤いの化身 思い出したんだね 雪よりも白いその花に 包まれながら生きるすべを 大気をいたわりながら ゆっくりと 信じた誰かを思い浮かべて 息をしてみて

詩 『霧は白く』

作:悠冴紀 謎を恐れ 混沌を疎み 一元論の結論に方舟を見る人々 悟りと信じて瞳を閉ざし 目覚めと信じて眠りに落ちる 意識の雲に覆われて 私の証言は呑まれていく 白く仄冷たい霧の中へ 私は一体何人 友を失えばいい 迷い込んでいく かつての友が 一人 また一人 意識の雲に囚われて シアンとマゼンタとイエローの記憶 幼き日には見えていた数多の景色 友たちの瞳に 今はもう映らない 友が眠る 私の真空に始まりをもたらした友たちが 一人 また一人 目覚めの確信を語りながら