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【うつ病せんせい】3. どうしてわたしがうつ病に

 診断を受けてすぐに、薬物治療が始まった。恥ずかしながらわたしは、学生時代にこの病気について勉強したにも拘わらず、少し仕事を休んでおとなしく薬を飲んでいればよくなると軽く考えていた。ところが、まずその薬の副作用に苦しむことになる。うつ病の主な病態として、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが、分泌はされても過剰に取り込まれてしまい、自律神経のバランスがくずれるということがある。わたしに処方された薬は、そのセロトニンやノルアドレナリンの取り込みを抑えるという性質を持ったものだった。わたしの場合、副作用は「吐き気」と「寝汗」であった(薬物の副作用は個人差が大きいので、別の症状が出るひともいれば、副作用が出ないひともいる)。吐き気に関しては吐き気止めが処方されすぐに落ち着いたが、寝汗には長く悩まされることになった。
 服薬を初めて数週間、吐き気は落ち着いてきたが、当初からあった倦怠感や意欲の低下は改善しなかった。むしろ、そのような症状に加えて、漠然とした不安や焦りの気持ちが出てきたのだ。なぜ、わたしがうつ病に? この先どうなるの?――
 そんなときは好きなことをして気を紛らわせようとした。しかし、趣味であった読書や映画鑑賞を試みるも、全く集中できない。そして、それに対してさらにイライラしてしまう。何もできなかった。食べることも、お風呂に入ることも、数日おきにしかできない。体重はどんどん減っていった。40㎏を下回ろうという頃には、シャワーを浴びるのに立っているのがしんどくなった。自分の状態が受け入れられず、泣き叫び、物に当たったことも多々あった。
 両親には、なかなか言い出せなかった。心配をかけたくなかったというのはあるが、今考えるとどうして言えなかったのか、よくわからない。ある日わたしは、このまま一人暮らしをしていては何らかの形で自滅すると感じた。よく晴れた日の朝、少しだけ調子がましだったので、わたしは一通の手紙を書いた。うつ病と診断されたこと、治療を始めたこと、仕事を休んでいること、なんとか生きていること……。便箋4、5枚に綴り、実家に送った。翌々日の夕方、母親から電話がかかってきた。気づいてあげられなくてごめんね、今から迎えに行くから一緒に帰ろう、と。抑えていた感情が爆発した。わんわん泣きながら最低限の支度を整え、わたしは実家に帰ったのだった。

(つづく)

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