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【百人一首】(うかりける/七四 ・源俊頼朝臣)

うかりける人をはつせの山下風(やまおろし)はげしかれとは祈らぬものを
(七四・源俊頼朝臣)

【解釈】

つれなかった人が振り向いてくれるようにと初瀬の観音様に祈ったのに。それなのに初瀬の山おろしよ、私はそんなふうに厳しく冷たくされたいと祈ってなんかいないのに。

片思いを嘆いた歌です。

出典は「千載集」恋二・七〇七。
歌合せの席で「いのれどもあはぬ恋」というお題に沿って詠まれたものとされています。

作者は源俊頼(みなもとのとしより)。音楽の才に秀でる一方で当代きっての歌人でもあり、百人一首の選者である藤原定家の父・俊成にも大きな影響を与えたとされる人物です。

「はつせ」は「初瀬」と思いを「果つ」の掛け言葉と見る向きもありますが、それほど難解な技巧や単語はありません。

初瀬は現在の奈良県桜井市にある長谷寺のこと。古くから信仰を集めてきました。

平安貴族たちはこの「初瀬詣で(はつせもうで)」が大好きで、都からはるばる遠出をしては観音に祈りました。枕草子や源氏物語にもさらっと登場しています。

片思いの相手があまりにつれなくて、この思いが通じるようにと長谷寺の観音様に祈った。それなのに相手はなびくどころか、ますます冷たくつらくあたるばかり。そう、初瀬の山嵐みたいに。そんなふうに祈った覚えはないのに。

切ないですね。

とりつくシマもないほど派手にフラれている感じとともに、初瀬の山あいの少しもの淋しく趣ある風景が目に浮かびます。

奈良の長谷寺って、独特の雰囲気があって素敵です。

季節ごとにいろんな花が咲いて、今の時期は紫陽花がきれいなのかな。

重厚なつくりの仁王門、おごそかな登廊をのぼった先には、意外なほど巨大な本尊・十一面観音。紅葉の時期の五重塔なんかもいい。

参道に連なるお店に立ち寄って、焼きたての草餅を食べるのも必須項目です。

去年の秋に奈良を訪れて、同じ桜井市内の安倍文殊院にお参りしたものの時間切れで長谷寺までは行けなかったことが心残り。

次回は久しぶりに「初瀬詣で」もしたいなと思っています。

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