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【百人一首】めぐり逢ひて(五七・紫式部)

めぐり逢て見しやそれ共(とも)分(わか)ぬまに雲がくれにし夜半(よは)の月影(五七・紫式部)

【解釈】

やっとめぐり逢って、ようやくそれと分かるか分からないかという間に雲に隠れてしまった、夜更けの月。そんなふうに、あなたもあっという間にいなくなってしまった。

紫式部の歌です。出典は新古今集 雑上 一四九七。

末尾は「夜半の月かな」で覚えている人も多いかもしれません。
新古今集や紫式部集のほか、百人一首でも古い写本では「月影」と書かれているため、そちらが原作に近いのだろうと思います。
詠嘆の「月かな」も雰囲気があっていいけれど。

新古今集の詞書には「はやくよりわらはともだちに侍りける人の、としごろゆきあひたる、ほのかにて、七月十日のころ、月にきほひてかへり侍りければ」とあります。

子供の頃から親しかった友達に久しぶりに会えたのに、月と競うように慌ただしく帰ってしまった。そんな歌です。

受領階級の娘である紫式部は、父親や夫の地方転勤も身近なものだったのでしょう。
幼なじみの友も同じような境遇であったとすれば、日常的に会ってゆっくり話をするのはなかなか難しそう。

何度も遠くへ引っ越してきた身としては、この紫式部の感覚はよく分かります。
帰省のついでに数年ぶりに会って、ランチをしながらおしゃべりをする。楽しい時間は本当にあっという間です。会えただけでもうれしいけれど、やっぱり少しさびしい。

ちなみに大学時代に新古今などに触れるまで、これは恋の歌だと思い込んでいました。

恋しい人にやっと会えたと思ったのに、あなたであると本当に分かる間もなく、すぐに雲に隠れてしまった、そんな短い逢瀬だった。

そんな大人の歌だと思っていたのだけど、どうやら違ったみたいです。ムダなアダルト解釈、共感してくださる方いませんか。

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