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【百人一首】あらざらむ(五六・和泉式部)

あらざらむ此よの外(ほか)の思出(おもひで)に
今ひとたびのあふ事もがな
(五六・和泉式部)

【解釈】

私はもうすぐこの世のものではなくなります。他ならぬ最後の思い出に、今もう一度だけあなたに会いたい。

出典は後拾遺集 恋三 七六三。

作者は恋多き女として知られる和泉式部(いずみしきぶ)、中古三十六歌仙の1人でもあります。

和泉式部は、紫式部も在籍していた中宮彰子のサロンで宮仕えをしていました。紫式部には「文学的なセンスはまあすごいけど行動がだらしない」とか、その華麗な恋愛遍歴についてサラッと悪口を書かれています。

この歌の詞書には「心ちれいならず侍りける比、人のもとにつかはしける」とあります。病の床にあって、恋しい人に送った歌ということになりますね。

特に凝った技巧はなく、ストレートな歌です。
切なさというよりは執念、思いつめた迫力のようなものを感じます。重い。

たぶんもうすぐ死んじゃうから、最後にあなたに会いたい。恋多き女が最後に会いたいと願ったのは誰だったのかな。

自分が死ぬ時に人生を振り返ると、何をどんなふうに思い出すのかしら、と思うことがあります。
わりとしょうもない思い出ばかりかも、という気もするけれど大丈夫かしらん。

娘である小式部内侍を先に亡くし、晩年は何かと不遇だったと言われる和泉式部ですが、最後に一目会いたいと思えるほど愛した人がいたのなら、やはり幸せな人生だったのかもしれません。

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