紫陽花と朝顔
庭には紫陽花と朝顔。
「私は紫陽花の萼の美しさしか知らない。真の花の素顔を知る事は決してできない」
彼女が物憂げな表情で告げる。
「素顔を知れば、この恋はさめてくれるのかしら。それとも」
悲しげに紫陽花に微笑む彼女。
「僕は朝顔の閉じられた姿しか知らない。朝顔の美しい咲き姿を一度でいいから愛でてみたい」
見つめ合うふたり。
皓々と月が揺れる双眸を曝す。
彼女は視線をふと逸らして、紫陽花と朝顔を交互に見つめる。
僕は堪らず彼女を抱きしめた。
「どちらにせよ。知ればきっとさめてしまう」
「……」
「薄情な片恋なのよ」
─了─
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