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煙草/MOTHER/居酒屋

 夜、駅から少し離れたセブンイレブンの外に置いてある灰皿の脇に立って煙草を吸っていた。すると4、50代であろう女性がやってきて俺に話しかけてきた。
「お兄さん、煙草吸ってるんですか?」
(見りゃわかるだろ)と思いつつ
「あ、はい。吸ってます」と返した。
「若いのに煙草吸うって珍しいね」
「そうですかね?まあ確かに周りはあんまり吸ってないかもですね」
 俺は(なんじゃこのおばさんは)と思いつつ無難に受け答えていた。するとおばさんも煙草を一箱ポケットから取り出して吸い出した。
「わたし、久し振りに煙草吸うんですよ」
「へえーそうなんですね」
 このあたりで俺の煙草は短くなって、終わりを迎えようとしていた。サッと火を消して灰皿にポトンと落とす。
「じゃ、すみません。この辺で」
 俺は礼をして車へ戻った。
 今思うと、そこそこ年がいったおばさんが久し振りに煙草を吸うって、なにがあったんだろうと思う。映画のワンシーンみたいだったが、の割には俺の受け答えは素っ気なさ過ぎた。


 『MOTHER』というゲームがある。任天堂から発売されたRPGシリーズだが、いつかやってみたいな〜という思いがあった。
 ゲームボーイが欲しいな〜という思いがあった。俺が小学生の頃に親族から貰ったゲームボーイでポケモンをプレイしていたのだが、どこかでなくしてしまった。いつかまたゲームボーイを入手してあの起動音を聞きたかったし、ゲームをプレイしたかった。
 この2つの願いがあって、またお金に余裕があった月があった。俺は地元のBOOKOFFに行きMOTHERのソフトとゲームボーイアドバンスSPを購入した。計15000円くらいだったはずだ。
 早速MOTHERをプレイした。攻略サイト等には頼らなかったから、ひとつひとつのステージにいるボスを倒すのにめちゃくちゃ時間がかかった。でも面白かったからプレイし続けた。しかし、その後自分の仕事が忙しくなり、精神的な余裕がなくなり、俺が住むアパートは食って寝るだけの場所に化す。ゲームをプレイする時間的、精神的な余裕がなくなってきた。やっと色々と余裕が出てきて、数ヶ月ぶりに起動してみるとゲーム内の物語をほとんど忘れてしまい、あまり面白くなくなってしまった。
 今はMOTHERを寝かせている。寝かせて、俺の中からMOTHERの記憶がなくなったらもう一度プレイする。そうすれば最初にプレイしたときの、あの面白さが蘇ると信じているからだ。もうすぐMOTHERとゲームボーイを購入してから一年が経つ。


 俺が友人と居酒屋に行ったときのこと。俺たちはカウンターに座り、ほどよく酔いも回り、近くの席のおじさんと話していた。聞くとおじさんは仕事の関係で全国各地を飛び回っているという。そして今は群馬に住んでいるのだが、札幌にも家があるという。俺は札幌出身の群馬在住だ。まさか群馬に住んでいて札幌の話ができると思わなかったから、おじさんとの会話はおおいに盛り上がった。
「お兄ちゃん、じゃあまたこの店で会ったら札幌で飯奢ったるよ」
「え!マジすか!」
「おお。俺この店常連だからさ、いつでも会えると思うよ」
 おじさんはそう言って会計をして店を出た。俺はまたこの店に行こう!と思った。またおじさんに会いたかったし、なによりここの居酒屋の料理がおいしかった。
 この居酒屋に行って何ヶ月が経つだろうか。去年の夏あたりの出来事だったと思うが、未だにこの居酒屋に再訪していない。

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