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サウナのTVとハードボイルドワンダーランド

私には楽しみがある。

月に一回、温泉に行くことだ。

何も箱根や湯布院に行くわけではない。最寄駅かシャトルバスで15分の慎ましやかな温泉だ。

以前、子供達が珍しく早く眠りについたので、一人悠々と花の金曜日のゴールデンタイムに温泉へ出かけたことがある。もちろん妻に丁重にお伺いを立ててからだ。

温泉の中でも、とりわけサウナが好きだ。

サウナ、水風呂、ただ座る。この工程を3度繰り返す。まるで自律神経を日本刀に見立てて鍛錬するように。

その日サウナに入ると、当たり前のことだが大小様々なおじさんがタオル一枚ないしは全裸で座っていた。

サウナにはTVがある。

TVには丁度金曜ロードショーの「僕のワンダフルライフ」という洋画が放送されていて、それを大小様々なおじさん達が終始無言で見ていた。

TVの中ではピアノとストリングスで構成されたイージーリスニングを背景に犬と少年が戯れている。

各々映画に集中しているせいか、全身真っ赤っかの「サウナから出るタイミングを完全に見逃しおじさん」もいれば、如意輪観音坐像のように大股に立膝のリラックススタイルで「日曜夕暮れ時のソファでくつろぐかのような気怠げおじさん」もいる。

それらの光景に得も言われぬシュルレアリスムを感じてしまい、「下を向いて奥歯を噛みしめ笑いを堪えている危なげおじさん」が私である。

この世界には、とんだところにワンダーランドへの入り口がある。それは現実と超現実の狭間の世界。私の直ぐ側、あなたの直ぐ側にある。

果たしてあなたは戻ってくることができるだろうか。

私は...。


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