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模型用モータの仕組み ~身近なエレクトロニクス~

我々の身のまわりには、大きなものから小さなものまで、様々なモータが存在します。その仕組みを知っていますか?


1.はじめに

これは、令和5年度後学期に、教育学部技術科3年次生を対象とした専門教育科目「電気工学実習」の中で取り上げたテーマの一つです。今年度が、担当3年目でした。

我々の世代であれば、お馴染みの模型用モータ。ラジコンカーなどの動力源として、子ども(小学生?)の頃には、いろいろとお世話になりました。その後は、しばらく御無沙汰していたものの、何と大学の授業で再会することになったのでした。

図1.お馴染みの模型用モータ

2.分解を始めよう! 内部はどうなっている?

まずは、本体の金属カバーを取り外します。プラスチック部分とは、ツメを折り曲げて外れないようにしてあるだけなので、ここを、まっすぐに伸ばして引っ張れば抜けるはず。ちょっと手強いかもしれませんが、頑張って下さい。ただし、ケガをしないように! うまくいけば、内部の構造が見えるようになるはずです。こんな感じ。

図2.カバーを取り除くと……

最近の学生は、あまり模型用モータの内部を見たことがないようで、この段階で「うぉー!」となることも多かったです。もしかすると、“内部の世界”が存在することに想像が及ばないのかもしれません。あるいは、ものづくりの機会が減少して、模型用モータに接する機会が激減しているのかもしれません。まあ、そのことについては、これ以上、言及しないことにします。

全体的な構成は、このような感じ。下の写真の左から順番に、金属カバーの部分(固定子)、軸の付いた円筒形の物体(回転子)、そしてプラスチックカバーの部分(ブラシ)となります。

図3.全体的な構成(固定子/回転子/ブラシ)

2-1.固定子

金属カバーの内側には、永久磁石が貼り付けられています。よく見て下さい。金属を近付けると引き寄せられるため、その存在は明らかだと思います。

図4.固定子と永久磁石

2-2.回転子

内部にあった円筒形の物体は、よく見ると、蛍光ピンクの導線でグルグル巻きにされています。この導線に電気が流れると、金属部分が電磁石になるのです。

小学校の理科の授業で習いますが、磁石には「N極」と「S極」があります。そして、異種の極間には「引力(引き合う力)」が、同種の極間には「反発する力(斥力)」が働きます。つまり、永久磁石と電磁石の相互作用で、「動き」を起こすことができることを意味しています。

図5.回転子と電磁石

2-3.ブラシ

プラスチックカバーの内側は、このようになっています。単なる穴の開いた軸受と思うかもしれませんが、実は、下から「2本の金属片」が伸びています。これらの“根元”の方は、赤と青のケーブルに繋がっているため、乾電池に接続することで、ここを電気が流れることになります。一方から入って、他方から出ていきます。なお、反対側に当たる金属片の“先端”の方は、図5のオレンジの金属部(左側)に接しています。もしかすると、摩擦を低減するためにグリースが塗ってあるので、ちょっと見えにくいかもしれません。御免なさい。

図6.ブラシ(回転子に電気が出入りする部分)

3.回転する仕組みとは?

図5のオレンジの金属部は、軸の周辺を一つの金属がグルリと取り囲んでいるのではありません。途中に切れ目があり、複数のパーツに分かれているところがミソです。これらを相互に結んでいるのが、電磁石を構成する蛍光ピンクの導線です。したがって、回転子が回転すると電気の流れる方向が自動的に入れ替わり、どの角度を回転子が向いていても、常に同じ状態を保つことになります。

このままでは、ちょっと説明が分かりにくいと思いますので、次の動画を紹介しておきましょう。これは、かつての卒業生が、別テーマの卒業研究で制作したものです。ちょうど、この中でモータの仕組みについて説明しているところがありました。もし詳しいことは分からなくても、エレクトロニクスを専攻するのでなければ、あまり心配することはありません。何となくでも、動き方をイメージできれば、それが理解へ向けての「第一歩」になるでしょう。もし興味が出てくれば、もっと調べてみて下さい。

4.おわりに

ここでは、模型用モータを取り上げて、モータの回転する仕組みについて紹介しました。我々の身のまわりには、大きなものから小さなものまで、様々なモータが存在します。一部のものを除くと、大部分のモータは、このような仕組みで動いています。子どもの頃に、誰もが磁石で遊んだ経験があるでしょうが、それと共通する現象が、我々の生活を支えているのです。


【おまけ】

意外と思われるかもしれませんが、「モータ(電動機)」と「発電機」は、本来、同じ構造をしています。使い方が違うだけです。一般に、モータは「電気」を与えて「動き(回転運動)」を得ていますが、強制的に「動き」を与えて軸を回転させると「電気」を生じます。その仕組みは、上の説明の正反対となります。

水力発電、火力発電、原子力発電は、いずれも発電機(タービン)を回しています。水力発電の場合は、高いところから水を落下させるだけですが、火力発電や原子力発電は、水蒸気を発生させて、そのときの圧力を利用しています。どのようにして水蒸気を作るかという「熱源」<注>が異なっているだけで、基本的に、電気を起こす部分の仕組みは同じです。

<注> 佐賀大学では、海の「浅い部分」と「深い部分」の温度差を利用する「海洋温度差発」の研究も進めています。

ちょっと余談ですが、「スピーカ」も、永久磁石と電磁石の相互作用で動作するという点で、仕組みは同じです。電気信号の大小に応じて、電磁石の貼られた膜を振動させて、音を生じさせています。この仕組みを正反対に利用したものが、「マイクロフォン」になります。

そもそもは同じ現象です。しかし、その使い方により、身近にある様々な物となって、我々の生活を支えていることが分かります。みなさんは、その事実に驚かされませんか?

※ここでは、理解を容易とするため、やや厳密性を欠いた表現になっているかもしれません。どうか御容赦下さい。

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