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海洋エネルギーの可能性:「海洋温度差発電」って聞いたことありますか?

半年ほど前に、こちらで「模型用モータの仕組み」について取り上げた。その「おまけ」のところで、海洋温度差発電について触れたが、これに関わる佐賀大学の研究施設が公開された。そのときの様子を、簡単にまとめる。


1.はじめに

毎年、7月第3月曜日の「海の日」のあたりで、佐賀大学海洋エネルギー研究所のオープンラボ(施設見学会)が開催される。今年度は、7月20日(土)だったので、伊万里サテライトを訪問した。佐賀市から自動車で1時間少々。50数キロメートルの行程である。意外と近い。

佐賀大学海洋エネルギー研究所(伊万里サテライト)
https://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/

2.公開講座

この日は、午後に4件の公開講座<各10分>が行われた。テーマは、①海洋温度差発電、②洋上風力発電、③潮流発電、④波力発電で、それぞれの発電技術についての概要説明があった。いずれも、こちらで取り組んでいる研究内容であるが、一押しは、何と言っても「海洋温度差発電」であろう。

ただし、佐大が世界に誇る研究成果をあげているものの、地元の佐賀県では、今一つ、認知度が低いような気がする。個人的には、その点が気掛かりである。

公開講座@2024オープンラボ

3.教育用海洋温度差発電模擬装置

3-1.体験型教材の外観

お隣の部屋には、海洋エネルギーに関する教育を目的とした体験型の教材が設置されていた。実際に操作することが可能となっているようで、赤色の「温水」と青色の「冷水」が装置の内部を循環していた。

これは、右半分が海洋温度差発電模擬装置、左半分が海水淡水化模擬装置のようで、両者を統合して作り上げられているようだった。単に、海水の温度差を利用して発電するだけでもよいはずだが、実際の運用に当たっては、これ以外の様々な機能も「オール・イン・ワン」で盛り込むようであった。

例えば、海洋温度差発電に当たっては、深層の冷たい水を汲み上げることになるが、概して、それは栄養分が豊富らしい。このように、いろいろな観点から資源の有効活用を図っているようであった。

教育用の海洋温度差発電模擬装置(右半分)と海水淡水化模擬装置(左半分)
教育用模擬装置(mini OTEC)の説明パネル
~オープンラボの会場で展示されていたもの~

3-2.海洋温度差発電の仕組み

実は、以前から不思議に思っていたことがあった。それは、表層の温海水で作動流体を蒸発させて気体にするのはよいとして、「なぜ深層の冷海水で液体に戻す必要があるのか」ということである。どうせ、また気体にするのであれば、そのまま、循環させればよいのではないかという疑問である。

火力発電や原子力発電などにかかわらず、しばしば「水を水蒸気にしてタービンを回す」と発電の原理を説明する。振り返ってみると、私自身がそうだった。もしかすると、「水蒸気になるとき、体積の変化(増大)に伴う圧力増加を利用する」というフレーズを添えたかもしれない。蒸気機関車が、まさに、そのようなイメージである。

これは、正しそうに見えて、実際には説明不十分だった気がする。水蒸気を冷やしたときには、「気体→液体」という反対の現象が起こることで体積が大幅に減少し、圧力が低下する。その結果、吸引力を生じて、この場へ水蒸気を引き込むことになる。どうやら、これが駆動力となって、作動流体が装置の内部を循環するようだった。

上述の火力発電や原子力発電などでは、通常、作動流体として「水」を利用する。沸点が摂氏100度のため、加熱して気体になっても、常温では液体に戻る。これに対して、海洋温度差発電では、作動流体として「アンモニア」を利用する。相対的に沸点が低いため、表層の温海水で気体となると聞いた。これを液体に戻すためには、「15度以上の温度差」が必要になるそうだが、極論を言えば、それは何でも構わないとのこと。

この場合は、手近にあるものが、深層の冷海水だったらしい。

海洋温度差発電の原理
佐賀大学海洋エネルギー研究所の公式ウェブサイトから引用
https://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/ocean_energy/about_otec_0/about_otec_01

4.見学ツアー

このようにして、海洋温度差発電の仕組みを理解した後、研究所の実験室を巡る見学ツアーに出掛けた。言葉では少し表現しにくいため、その詳細は省略するが、まずは、タービンと発電機、蒸発器、凝縮器などの据え付けられたところへ案内された。こんなことを言っては怒られてしまうかもしれないが、外観からは、その素晴らしい機能を見極めることはできなかった。御免なさい。

海洋温度差発電実験施設(その1)
左側の奥<緑の部分>が蒸発器[液体→気体]、正面がタービンと発電機らしい。
海洋温度差発電実験施設(その2)
右側の奥<青の部分>が凝縮器[気体→液体]らしい。
熱交換器。
蒸発器と凝縮器の中に収まっているようで、ここで作動流体が変化(液体←→気体)するらしい。

詳細は省略するが、これ以外に、いくつもの実験装置を見ることができた。その中には、子どもたちを楽しませるためのゲームも用意されていた。これほど大きな水槽は、普段、あまりお目に掛れないような気がする。

大きな水槽では、子どもたちのためにゲームも行われていた。
潮流発電を行う実験装置

5.おわりに

ここでは、海洋温度差発電を中心に言及したが、実際には、洋上風力発電、潮流発電、波力発電などの研究も行われている。今回、そこまで言及する余裕はなかったが、新型コロナ禍の真っ最中のオープンラボはオンラインで開催されたようで、現在でも、当時のコンテンツが視聴可能である。もし御興味があれば、こちら(https://www.ioes.saga-u.ac.jp/jp/openlab/)を御覧いただきたい。

【追記】

中学校技術科では、A)材料と加工、B)生物育成、C)エネルギー変換、
D)情報 の4領域を取り上げる。このうち、C)では、様々な発電技術が取り上げられるものの、残念ながら、技術科に在籍する学生でさえも、海洋温度差発電については知らないようである。個人的には、この状況を変えたいと思っている。

中学校技術科の教科書の一例
現在、附属中学校で採用しているもの。

【おまけ】

実は、「平成27年2月9日 文科省検定済」の教科書には、海洋温度差発電に関する記述が本文中<右上の部分>にあった。しかし、上で示した「令和2年1月20日 文科省検定済」の教科書には……

中学校技術科の教科書
以前に、附属中学校で採用していたもの。


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