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披露宴に出た所感②

 すごく景観が良い所に我々は案内されていた。結婚式が終わった後の皆が並んでできた道を新郎新婦が歩き全身ピンクの妖精と化した友人がなぜかクロークに預けなかったでかいリュック(ピンクのタイツが入っていたから預けなかったらしい)を隣で僕が持っている事で「タレントとマネージャーみたい〜」と少し盛り上がった後で、我々はまた別の場所に案内された。ピンクの友人はもう普通の格好に戻っていた。「あれ以上やるとしつこいだろ」とただの大ふざけ軍団ではなく冷静に賞味期限を分析しているあたりが結局このメンバーとつるんでしまう所以である。
 
 ここは結婚式場の屋上のような場所で、周りに高い建物がないのでみなとみらい近辺が一望できるようだ、ここで集合写真を撮るらしい。「クニサダじゃん」と声をかけられた。また1人高校の友人が現れた。彼は新郎と中学時代からの友人で当時のサッカーチームのグループ枠として参加しているようだ。ただ理由はわからないが結婚式の後からの参加なので今日僕と初めて出会した。不意に「そういえばお前今日スピーチなんだ....」もうやめてくれ!流行ってんのかそれ。少しこの後の事を忘れかけていたのに一気に現実に戻された。そして僕の右手には三ツ矢サイダーの500mlのペットボトルが握られていたのも思い出した。本当に全員写ってるのかといつも思うが参列者と新郎新婦の全員で写真を撮影した。いよいよ披露宴である。会場に行きたくなさすぎて、喫煙メンバーについていって喫煙所に閉じこもった。

 こんなに近いものなのか。我々の卓は朝一緒に来たメンバーと同じ高校の女子2人の計8人の卓であった。僕がスピーチをやるからなのか、要注意卓だからなのかわからないが新郎新婦の目の前であった。マイクスタンドとマイクが置かれており「お前のための席だな」と皆はニヤニヤしてきた。会場内のスタッフの方に段取りとタイミングを教示して頂き、僕は席につき引き出物の袋の中に三ツ矢サイダーのペットボトルを入れた。

 たいての人はこういう状況下でお酒を飲み酒の勢いでかますという人が多いのだろう。残念ながら下戸である僕はお酒を飲んでしまうと茹蛸状態であり常時恥ずかしがってるやつみたいになるのでその戦法は使えない。ではどうするか、もうじっと待つしかない。そして始まる。

 華やか披露宴が始まり、新郎新婦が会場に入りここからは和やかな会かなと思っていた。というか今まではそうであった。しかし披露宴とは思えない大盛り上がりでうるさい卓があったのだ。何を隠そう我々の卓である。冒頭に記述しているが、我々は少し浮いているのである。ぱっと見周りの招待客の方がオールラウンドサークルの成功者たちみたいな感じで盛り上がりそうなのにやはりもう皆三十路前後である。しっかり落ち着いてる。そんな中我々の卓はやりたい放題だった。出てくる現象全てに絡みにいき、それを僕が押さえ込むといういつものパターンを横行していた。

 そんな中披露宴のプログラムは進み、乾杯の挨拶となった。司会者の方が「それでは乾杯の挨拶は新郎の前職場の同期であり盛り上げ隊長〇〇さんお願いします」と話し、1人の男性が新郎新婦の横のマイクスタンドに出てきた。こんなに自信に満ち溢れている人も久々に見たし、こんな口上で自分も登壇する事になるだろうと思うと今にも逃げ出したい。紹介を受けた男性は簡単な新郎との馴れ初めを話し、トドメの一言として「新郎と新婦の愛には完敗です。かんぱ〜い!」とマンキンの一撃を繰り出した。しかし健闘虚しくあまり皆に伝わらず一瞬空気がグニャと曲がった。彼が座っている卓も全然フォローしない。そんな時、僕の卓から「なるほどね!完敗と乾杯!うぉぇい!」と声が出て騒ぎだした。これはとても良いフォローであり、それにつられて会場の空気も和やかになり、彼の席の人たちも煽りだした。今回初めて良い方に好転した。ワーワー言っている間に乾杯も終了し素晴らしい持ち直した披露宴。ここで少しご歓談タイムになった。御歓談タイムの時、僕の卓のメンバーは「あのスピーチ絶対大分前から考えてたよな、あの空気は可哀想でツッコミ入れちゃったわ」と話していた。この後はこの卓のメンバーで飲みでも行こうかなと思った。

 そろそろ僕の出番でもあるのでトイレに行く事にした。3人ほどでトイレに行き小便器の前で用を足していた時に急遽式場のスタッフがトイレに入ってきて「クニサダさんはいますか!」と探しにきた。そろそろではなくもうすぐだったのである。心の準備もクソもないまま駆り出された僕は新婦を奪うわけないのに披露宴会場を全速力で走り、自分の烏龍茶を飲みマイクスタンドの方へ向かった。
 「それではここで新郎のご友人、大の人気者、高校の時は知らない人がいないくらいの有名人であったクニサダ様よりスピーチをして頂きます」とあの人は今!?みたいな口上で煽られ僕はマイクスタンド前に立った。すごく緊張している。簡単な挨拶をしようとしたら、僕の席の卓から「監督!」と今まで言われた事ない謎の呼称を発し始め、さっきの乾杯の挨拶をしていた男性が座る席からも「監督!」と同調して謎の呼称を浴びせてきた。「え〜クニサダと申します〜」的な簡単な挨拶をしつつ、「監督って呼ばれたの初めてなんですけどね」と僕もテンションがおかしくなりツッコミ出してしまった。そこに呼応するかのようにボケの応酬がくる。まさに地獄絵図である。何回かラリーをした所でこれは終わらないと思い。強制的に手紙を読む事した。意外にも手紙の内容は好評で最初にふざけ倒していた連中も途中からは普通に聞いてくれていた。僕の華麗なるユーモアポイントもそれなり受けなんとかスピーチを終えた。なんだかすごく疲れた。もうこれで終わりだ。今日はおしまいです。本来こういうスピーチの時は手紙をしたためそれを渡すのがしきたりらしいが当日の朝ワードのデータをコピーした原稿をぐしゃぐしゃにして読んでいたので渡しもしなかった。

 僕のスピーチの後新婦の友人が友人代表スピーチをしていたがテンションの差が激しく流石に僕らの卓でも新婦側の人間はいじれないという事でおとなしくしていた。後で聞いた話だが僕以上に新婦の友人はスピーチをしたくなかったらしい。それは緊張とかではなくあの後が嫌だったんだと。後日談で言うと、新郎新婦は驚いていたらしい、僕がスタンドマイの前に立った際に強烈ないじりムーブメントが発生してしまいこれは終わらないんじゃないかと少し冷や汗をかいていたようだが、僕が無理やり途中から手紙を呼び大荒れの中動じる事なく読み終えていた事を。ただ最初のツッコミ入れまくってる時は新婦の友人たちからは「カンニング竹山みたいで怖い」とクレームを入れられてもいたらしい。余計なお世話だ。僕の立場になってやってみろ。

 そこからは場は荒れていたが僕の心が穏やかなのでここに書くい程の感情の起伏はないので終わりにする。ただ最後新郎が全員にお礼を言う際になぜか僕の事を苗字名前ではなく名前名字の欧米スタイで読んできた時は条件反射で「なんで俺だけ逆!?」とツッコでしまった。地獄である。

 披露宴まで終わり我々は仲間内でだけで二次会に行く事にし、引き出物の中に入れていたペットボトルはすぐゴミ箱に捨てた。
 
 スピーチの中で僕は彼らと過ごした高校3年間を「どうしようもなく楽しかった3年間」と表現した。

 二次会も終わり残った3人で終電まで池袋で〆のラーメンを食べていた時に今日の披露宴の表現が浮かんだ。

 どうしようもなく楽しい天国のような地獄の披露宴だと思った。

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