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「合宿の夜」(番外編4:後編)

 私たちは訳がわからないまま、仕方なく命令通り、お風呂場の壁に裸で並びました。その頃には入学後すぐに入った子が何人か退部していたので、一年男子はもう10人もいなかったと思います。それぞれが手で前を隠したり後ろを向いたりして、恥ずかしさに耐えていました。 私も前を隠し、少しドアから後ろを向いていました。

 それから数人の先輩が入れ替わりに顔を覗かせて、「前を隠すな!」と怒鳴り、手を外させて、私たちの裸をじっくり眺めて、ひそひそ話したり、ニヤニヤして行きました。もちろん、男子の先輩だけではなく、中には女子の先輩も数人いました。

 私はもうその場から逃げ出したくてたまりませんでした。もちろん、合宿に来たことも、既に辞めたくなっていたブラスバンドを、なぜもっと早くに辞めなかったのか、後悔していました。

 私はもう何も考えないようにして、先輩たちの命令通り、前も後ろも何もかも見せてやりました。そうでないと、泣いてしまいそうだったのです。何となく私はぼ~っとしながら、TVで見た刑務所の囚人ってこんな気持ちなのかなあ、などと想像してしまいました。

 最後にまた部長がやってきて、「もう出ろ」と言うので、その恥ずかしい「品評会」は終りました。

 私は次の日も何となく過ごし、なるべく記憶にも残らないようにしました。

 それ以降、私は更に部活に参加するのが億劫になり、最後には原稿用紙30枚位の退部届を書いて辞めました。そもそも気が付けば入部させられていた部活だったので、むしろすっきりした気分でした。

 実はこの時の部長は、父の古い友人(夫)と中学の時の担任(妻)の息子だったので、本人はもちろん、卑怯にも親を通じても引き止めてきましたが、私の意志は固いものだったのです。ちなみにこの話は、この時も今も未だに、家族の誰にも話していません。

 と言うわけで、私は主に運動部にありがちの先輩・後輩なんて大嫌いなのです。

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