誰に愛されたいのか
わしは人気じゃ。
今、この小説に宿っておる。
発売されてすぐ、初老の塾講師が書店で手に取った、人気作家6年ぶりの新作長編。
不思議とは思わんかな。小説に限らず世の全て、売れる売れないがハッキリ分かれおる。
そう。人気じゃ。
モテて好かれて愛される……ほれほれ。喉から手が出るほど欲しいじゃろ。
『これ、売れるよな』
ほっほっほ。
わしの力じゃ──
☆☆☆
こんにちは!
フジミドリです♡
今日の私物語は人気が主人公。
あはは~人気といっても、今一つ掴みどころがございませんよね。
人気ある商品・アイテム・娯楽作、あるいは動物や人に宿る精霊と申しましょうか。
もしも、そのような存在があるなら、仲良くしたいもの、ならばまず相手を知ろう、想像するしかないけど……そう思いました。
では、早速──
☆☆☆
(わしがついておれば売れるぞよ)
『やっぱそうか……敵わねえや』
(悲観するでない。そなたも負けず)
『あはは~むり無理ムリ~MURI!』
(ほれほれ。そんな思いが、わしとの間に壁を作りおるぞ。弱気になるでない)
『たーしかに確かに。でもさ~分相応ってのあるじゃない。オレはこのままでいいよ』
(おやおや。謙虚なことじゃ)
『謙虚が服を着て歩くのさ』
(自信もったらよかろう)
『オレはひっそり目立たず……』
(ほぉ。無名のまま朽ちてよいか)
『目立つと想念浴びるでしょ』
(何を恐れておるのじゃろうな)
『まあ、決まってんだけどさ』
☆☆☆
わしは興味を惹かれ、こやつが家に帰って、物語へ浸る間も観察しておったのじゃ。
─これ、前に読んだな─
わしが宿る小説の世界へ惹き込まれつつも、こやつの心に、不確かな疑問が湧く。
物語から滲み出る青春の香り、切ない恋慕、行き場のない不安、そして飛び込む蛮勇。
かような味わいに浸りながら、他方で浮かぶ大学の図書館、文学誌掲載作の映像。
☆☆☆
(思い出したようじゃな。古き佳き作品)
『あれって、書籍化されてないよね』
(わしの力がまだ及んでおらぬ作品じゃ)
『40年経って、再挑戦したんだ……』
(昨夜は途中でやめおったな)
『危うく一気読みしそうだったよ』
(わしの力もなかなかじゃろ)
『確かに……けど、勿体なくてさ』
(ほぉ。 勿体ないとは不可思議)
『物語の世界に長く浸っていたいのさ』
(なるほど。これまたわしの力じゃ)
『人生を生き直すような気がする』
☆☆☆
こやつの思いは響いて来る。
初めて読んだ作品の衝撃。二十歳過ぎ。友人と興奮した語らい。真似て書く。思うように進まず行き詰まって。
気の利いた比喩表現。虚をつく発想。粋な台詞。奇抜な展開。艶やかに交感する男女。
過去に読んだ、この人気作家が織り成す物語は重なり合うて。その時々で、こやつがどのような心境にあったかも。
そして今、静かな終着へ──
☆☆☆
『いや~マジ堪能した。ありがとう』
(礼を言われる……妙な気分じゃ)
『あんたのお陰で、物語に出会えた』
(わしが引き合わせた奇跡じゃな)
『オレの読みたかった物語。読み終えてようやくわかる。読むまでこんな物語とは知らなかった。オレの代わりに書いてもらったよ』
(そなた、わしの秘密を理解したな)
『……なるほど。商売の鉄則だね。まず買う人を見つけ、それから商品作り』
☆☆☆
商品を作ってからの買い手探し……逆じゃよ。良品なら売れる、わけでもなかろう。
誰が欲しがり
どなたは買うか
つまり、人気じゃ
人気とは人の気──思いや考えになる以前の意識じゃ。意識が先で現象は後。人々の意識がわしを創り出すのじゃ。
そう解れば話は早い。
☆☆☆
『けど、人気だとさ』
(なんじゃ。不服かな)
『アンチも出るよね』
(それは世の道理じゃ)
『人気が出ることまで決まってた』
(もちろんじゃ。偶然など存在せぬ)
『前世の理解で決めてきたんだ』
(ふむ。知らぬ者などおるまいよ)
『どうだろね。忘れてる人が多いのかもよ。だから、憧れたり貶したりするのさ』
☆☆☆
なるほど。確かに。
己が望みし過去をば一旦は忘れてこそ、この現象世界が深く味わえる道理じゃな。
僥倖に恵まれたかの如く
自助努力の賜物であるように
愛され認められたと錯誤し
演技の感動に浸る。心の表層で味わう愛と感謝。そして、移ろいゆく現象に縋りつく。
よいのじゃ、それで──
☆☆☆
『オレ、やり尽くした感があるよ』
(ほっほっほ。負け惜しみじゃ)
『前世で理解したから映し出せる』
(躊躇う必要なぞあるまい)
『なるようになる。それで満足さ』
(平穏無事なあり方。つまらんなぁ)
『観客あっての人気者だからね』
(うむ。読み手が望んだ作品じゃ)
☆☆☆
お読み頂き、ありがとうございます!
次回は5月14日午後3時です。
西遊記の創作談話が今週の木曜お昼♡
是非、いらして下さい!
ではまた💚
ありがとうございます🎊