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チョコエッセイ🍫運命の一目惚れ

人生を変えた冬から数年が経った頃、私は再びデパートのバレンタイン催事に来ていた。

今度こそ、19歳の時は買えなかったお高いチョコレートを買うために。

とは言っても、デパートで買えるチョコレートをGODIVA以外たいしてよく知らない上に、ろくに下調べもしていなかった私は、ショルダーバッグの肩紐を強く握りしめていた。

19歳の時とは違う心持ちで、19歳の時とは違うデパートの催事場へドキドキしながら臨んだ。

催事場へ入った瞬間、正直すごく困った。

呆然とした。

あの時が比じゃない程、広い催事場に聞いたこともない名前のブランドたちがひしめきあっていたものだから。

そんなに頻繁には買うことのできない、GODIVAという文字に安心を覚えてしまうくらいには縮こまっていたと思う。

メリーチョコレートカムパニーなんて、雑踏に舞い降りた女神のごとく、道標となってくれた。

初めてスクランブル交差点を渡った時のような、グラン=プラスに足を踏み入れた時のような、そんな不安感に襲われていた。

宛もなく、傍から見たら挙動不審な程に視線をさ迷わせながら、チョコレートを物色した。


ふと、視界の端に映った何かに、気を取られた。

なんだろうと思って、しっかりそちらに向き直ったら最後、パッケージが好みドンピシャのチョコレートが目に飛び込み、一瞬にして心を奪われた。

ああ、一目惚れってこういうことなんだ。と、いい歳して初めて気がついたのだった。

モロゾフ、レオンのアンバサダーとの出会いだった。

しかし寄って見てみると、完売の二文字。

知っている、人気者はいつもだいたい誰かのものなのだ。

欲しかったら入念に準備して、然るべきタイミングで手に入れなければいけない。

完全にこちらの落ち度だった。

泣く泣く隣に陳列されていたピアリッジを手に取った。

私の人生初めてのデパートのチョコは、モロゾフだった。

その後手に取ったチョコレートは、おそらくモロゾフのプラウドだったと思うが、定かではない。

もう、アンバサダーを買えなかったショックでいっぱいだったものだから。

それに、ひとつの会社が複数ブランド展開していることも、当時の私は知らなかったから、別のメーカーのチョコレートを買ったと思い込んで、家に帰った。

高いチョコレートを買ってしまったという事実に高揚感を覚えながら、2つのチョコレートの箱を開けると、コインの形のチョコ、何やら包み紙に包まれたチョコ、謎のシマシマのチョコ、まん丸に少し模様が施されたチョコ。

色こそほとんどが茶色だけれど、まるで幼い頃に読んだ童話に出てきた、キラキラ輝く宝物を見たかの様な気分だった。

アリババと40人の盗賊の洞穴の中や、雪ばらと紅ばらの木の洞の中、鬼ヶ島で取り戻した宝の山。

それには劣るはずなのに、それに並ぶようなものを手に入れてしまったような気がしていた。

そしてその宝物たちは、美しく、おいしかった。

日常的に手に取る安価な板チョコや、チョコレート菓子だってもちろんおいしい。

高いんだもの、そりゃあおいしくなけりゃ困るけど、美しさとおいしさがしっかりと同居しているなんて。

実は少し疑っていたんだ。

こんなにきれいなんだもの、少しくらい「ん?」て思う味があったって許されるだろうし。って。

だから、いい意味で裏切られたんだ。

買った人が、貰った人が、おいしいと食べるために全力で作られていたんだと思ったら、顔も知らない商品開発担当者への感謝で胸がいっぱいになった。

こんなにおいしいものに出会わせてくれてありがとうございます。これからも、バレンタインが来る度に御社のチョコレートを購入致します。

そう決意を固めた私は、翌年また別のデパートで、前年とは少し違うパッケージのあのチョコレートに2度目の恋をした。

今度はしっかりと、満を持して手に入れたけれど。

それ以来毎年2月になると、私は懲りずにレオンのアンバサダーに恋をしている。

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