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チョコエッセイ🍫異国情緒溢れる出会い

名前しか知らない国からはるばるやってきたそのチョコレートは、口に含んだ瞬間にエキゾチックな風を吹かせた。

バヌアツで育ったカカオから作られたというその板チョコは、ほんの一欠片、小指の爪ほどの大きさであるにも関わらず、濃い香りとコク、カカオ70%らしからぬ甘みをもって、行ったこともない国の青空を鮮明に想像させた。

南半球、オーストラリアの近くに位置する珊瑚海を囲む小さな島国。

1年を通して暖かな気候の国。そんなふんわりとしたイメージしか無かった。

暖かな青空と熱帯らしく空を覆う雲のもと、美しい海に囲まれている国なのだろうとは思っていたが、カカオを作っているイメージが無かった。

いくつかの島で構成されるその国は、チョコレートを名産としているという。

ハイソな街のデパートでチョコレートを売るお姉さんは、島ごとの味の違いを説明しながら試食として一欠片ずつのチョコレートを手に乗せてくれた。

カカオと砂糖で構成された、どっしりとしたアエランチョコレートというブランドのチョコレートは、食べる度に耳元を夏の風が吹き抜けるような気がして、思わず目を見開いてしまった。

隣で試食を貰っていたレディも同じように感じたのか、私と似たような表情をしていた。

全く知らない人間同士を同じ気持ちにさせるなんて、なんてすごいチョコレートなんだろう。初めて聞いたブランドだけれど。

少し感動してしまった。

だから思わず言ってしまったんだ。

「エピ島のを1つ、お願いします。」

元々買う予定は無かったけれど、こういう買い物も嫌いじゃないし、後悔も無い。

そうしてバレンタインに買った物の中で最後に残ったそのチョコレートは、憂鬱な繁忙期の休憩時間を暖かく溶かしてくれるのだった。

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