『京の国宝―守り伝える日本のたから―』について

去る9月12日、京都国立博物館『京の国宝―守り伝える日本のたから―』に行ってきました。久々の美術鑑賞でしたが、とてもよかったので報告します。

京都国立博物館『京の国宝―守り伝える日本のたから―』ですが、会期最終日に行きました。

最終日だったらここで書く意味ないじゃないか! と言われそうですが、お目当ての、狩野長信『花下遊楽図屏風』が9月7~12日の6日間限定公開だったのです。仕方がありません。

さて、『花下遊楽図屏風』ですが、六曲一双屏風(注1)の右隻第3扇と第4扇が関東大震災で欠落しちゃったんです。「白くなってるとこ」って言ったほうが分かりやすいですね。

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この作品は左隻と右隻が左右対称の画題になっていないので、安土桃山時代の作品でしょう。というか、安土桃山時代~江戸時代初期の作品です。

江戸時代初期に庶民の風俗が描かれた屏風で創られ、いまでもいくつかの名品が残されています。大和文華館(奈良)『松浦屏風』や彦根城『彦根屏 風』が有名で、これらもまた国宝に指定されています。

花下遊楽図屏風』は先に挙げた2つの屏風の前の時代に描かれたであろう作品です。なので、美術的価値もさることながら史料的価値も高い傑作です。また、この作品は『松浦屏風』『彦根屏風』と違って、屋外の花見の様子が描かれていて、自然を愛でたり、人間同士で遊んだりという描き分けが非常に興味深い絵画です。

右隻第3扇と第4扇がなくなってしまったのが残念ですが、これらの在りし日が収められている写真(明治時代のガラス乾板写真)があるので、昨年、デジタル映像による復元が行われました。

今回の展覧会は以前の国宝展と違って、文化財保護のテーマがありました。『花下遊楽図屏風』の展示もその一環だったんですね。

美術ファンであれば、文化財保護と聞けば「法隆寺金堂壁画」が思い浮かばれると思いますが、今回の展覧会でも「法隆寺金堂壁画」のガラス乾板写真や復元画が展示されていました。

これらは何度か観ていますが、これを観るたびに1949年の法隆寺金堂火災と翌50年の文化財保護法制定のことがセットで思い出されます。

もう一つ印象に残ったのが、『山科西野山古墓出土品のうち金装大刀』です。展覧会では錆びていない普通の日本刀が2本展示されていましたが、私はこちらのほうが印象に残りました。

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これは平安時代初期の征夷大将軍、坂上田村麻呂の遺品とされるものです。本当に坂上田村麻呂のものかは分かりませんが、ほかの副葬品や文献から位の高い軍人ということが判明しています。

考古学は詳しくないのでどうしても見た目で話してしまうのですが、この錆び具合がなんともいいのです。赤さびと黒さびのまだら模様や錆びないために原形を留めている金の装飾との色の対比、もとの姿を失ってもなお美しいかたち。観ていて飽きませんでしたね。

こういう形の欠けたものに美を見いだすのは、いかにも日本人らしい美意識ではあります。

ほかにもいろいろと名品がありました。『法然上人絵伝』や『春日権現験記絵』といった巻物も大変よかったです。『法然上人絵伝』のほうは一つの場面に居合わせている人々のひとりひとりの表情などがよく描き分けられていて、非常に興味を持ちました。

あと、吉岡里帆さんの音声ガイド。色気のある声をしてますね。男のひとから人気が出るのも分かります。素晴らしい名品と、吉岡さんの声のおかげで、2時間程度の鑑賞のつもりが、3時間になってしまいました。

この日はこれ以外にも、京都府文化博物館にて『小早川秋聲 旅する画家の鎮魂歌』を観ました。これについては、次回書ければと思います。

注1:六曲一双屏風は6つの扇からなる2つの屏風がペアになっている作品です。これが扇の数が4つなら四曲一双屏風、2つなら二曲一双屏風になります。二つの屏風をひとつの作品のように見てパノラマを楽しんだり、別個の屏風としてその対比を楽しんだりできます。最初に紹介した『花下遊楽図屏風』は前者にあたり、今回展示された俵屋宗達『風神雷神図屏風』は後者になります。

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