旅情について
個人的夏の定番曲は
森繁久彌さんの「知床旅情」。
私は「知床旅情」の旋律が似合うような国内旅行に憧れています。
未来に旅情という感情は、残されているでしょうか。
この国が、言葉が辛うじて通じるだけの異国の連なりだった頃、旅情はきっと現代人が思う以上に圧倒的な感情だったと思います。
上代に於ける旅は、その地に骨を埋める覚悟で赴くもので、別れ行く人々は互いに「袖を振り」、相手の魂を袖の中に預かることで再会を願いました。生れ育った土地で亡くなるのが幸せとされた時代です。
私達の旅は、昔とは比べ物にならないくらい気軽なものになったけど、便利さ、画一化、オンライン化……さまざまな要因によって、旅情とよべる感情は、失われつつあるような気がします。
旅情を味わうためにはやはり、目的地にスムーズに辿り着くこと以上に、少しの不便さ、ぎこちなさ、そしてアウェイ感が必要なのではないかなと思います。
その時たぶん旅人は、名所よりむしろ、名所と名所とをつなぐ街並みや自然、匂い、そして人々の姿……に心を遊ばせているはずです。