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ケアしたくなるデザイン

うちのお店は、ご近所はもちろん、全国のおばあちゃんと関係があります。

近所に住むおばあちゃんは「あんたたちの顔を見に行くにようになって、ベットから起きて歩くようになったのよ」とつぶやきます。コロナ禍は体調を悪くし、寝たきりで外に出る元気もなかった様子。昨年の春から、若いスタッフが入って活気づくウチに、時々賄い?持参で寄ってくれるようになりました。ご常連のおじさんとも顔見知りになり「いつもきてくれてありがとね」と互いに挨拶するようになりました。

お皿に入れて持ってきてくれた、お婆ちゃんお得意のミートソーススパゲッティ

全国のおばあちゃんたちは、ウチに使わなくなった手芸品などをダンボールに詰めて送ってくれます。
お店のキャパシティの問題もあり、お断りすることも多いですが、目や手の衰えで、好きだった手芸ができなくなった為、大切にとっておいた生地やビーズなど「だれかのモノづくりに活かしたい」とあたたかいメッセージが添えられて送られてきます。

ご寄付いただいた生地たち
驚くことにそのメッセージの多くに、「引き取ってくれてありがとう」と感謝の言葉があります
(メッセージのWord Cloud)

ケアを3つに分けて考える

前置きが長くなりましたが、何が言いたいかというとケアについてです。

去年、武蔵美の講師に呼んでくれるなどお世話になっていた山﨑先生が主催する「ソーシャルイノベーション研究会」に参加していました。そこでは、エツィオ・マンズィーニ著「Livable Proximity. Ideas for the City that Cares」を翻訳する皆さんが中心となった勉強会で都市におけるケアを学んでいました。

その中で、ケアを3つの意味に分類する話がとても意味深いので紹介します。

  • ケア1:誰かや何かに気づく 
    The first (that we will call care/1) refers to dedicating attention to someone or something.

  • ケア2:注意が誰かや何かに対応する状況になる
    The second meaning (that we will call care/2) is more specific, and regards situations in which attention becomes taking responsibility for someone or something.

  • ケア3:ケアが治療と同義となる
    Lastly, there is a third meaning (that we will call care/3) in which care is the synonym of therapy, and as the dictionary says, “[care] refers to the set of therapeutic means and medical prescriptions that have the aim of healing a sickness.”

ケアは多様な意味があり、この分類は社会課題の整理にとても役立ちます。損得が加速した現代社会(特に都市部)では、他者との関係が希薄化してしまい、それはケア1に関する危機でありながら、何よりもケア2の危機として現れ、顕在化しているといいます。社会的な孤独・孤立の問題はあきらかにケア1、2の欠乏状態です。

興味深かったのは、この3つの分類は主に欧米のリサーチからきているけれど、ケア労働の負担が常に、そして今もなお、その大部分が女性の肩にかかっているという事実に触れている点です。

日本も例に漏れず、ケア労働の割合は女性が多いです。ここでフェミニズムな話をしたいわけではなく、「日本のおばあちゃんがすごい!」ことです。

日本はおばあちゃんがすごい

2023年09月17日、総務省人口推計によると65歳以上の女性は、2051万人、女性人口の32・1% で割合は世界トップ。この65歳以上の女性たちは、戦後高度成長期をケアで支えてきた存在です。

そのケアスキルというのが、梱包されて送られてくる手芸品の丁寧で細やかなパッケージング(生地の内容メモ付き)、感謝のお便りから溢れ出ている(運営が大変なことまで気遣える解像度を持つ人が多い)こと。また近所のおばあちゃんは40年ぐらい前は近所の子ども達をみんな面倒見ていたというツワモノです。

ケア1の他者の存在に気づくこと、ケア2の助けが欲しい時にサポートすることが自然にできてしまう人たち。私がビジネスで一番嫌いな言葉が「コミュニケーションコスト」ですが、そんな損得は彼女たちにはなくて、徹底的に相手の立場にたって社会関係の隙間を埋める素晴らしいスキルを持っているのです。

心優しい男性のお友達たちは、私が熱量持ってこんな話をすると、「重いね、、、」と言う人が多くいます(笑)。きっと、『おばあちゃんの愛情をたくさん受け取ってお返しするのが大変なんじゃないか?』という心配なんだと思います。確かに愛情のお返しは重いけれど、彼女たちは返してもらうのではなく「誰かの役に立っている」ということが大切なんだと思うんです。

誰かをケアできるデザイン

うちのおばさんは3年前、抗がん剤で体調を悪くし、人一倍人の世話になることが嫌いな人だったのでメンタルを病んで68歳で亡くなってしまいました。ケアされるのは辛い。そのことをぼんやり考えると「誰かの役に立っている」という希望をつくるのは大事だなと感じます。

うちの母親もそうだけれど、まだまだ元気でいて欲しい。
そのためには、まだまだ社会にはあなたたちの存在が必要で、ご厄介になること(ケアして欲しいこと)がたくさんあるよ、という機会をたくさんつくれないだろうか、ケアしたくなるデザイン、ケアできるデザインはなんだろうか。
それは歳を取っていく私自身も、孤独にならず人と関わりながら、お役に立てる存在であり続けるには?と考えることでもあります。

今いろんな、おばあちゃんたちにケアされています。
ケアしたくなるデザインの入り口はわかってきたので、次は出口。
世の中に役立つように送り出すことが必要だとヒシヒシと感じる毎日です。


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