【小説】SNSの悪夢
服を着替えてあの男を待つ、トレーニングのウエアで行っても良いかな、着替えるのが面倒で、クンクンと自分を嗅ぐ。
前は、クンクン嗅いで臭く無かったらそのままなんて考えもしなかった、自分に関心が無くなるとこうなるのか。
それでも自分でこれは駄目だなと考えると、シャワーを浴びて様になる街着に着替えた。
前のマンションからは人が出てくる、何処かに有る働く場所に向かうのだ、
働きバチが巣から出て行って、蜜を集めるのに似ている。
与えられた勤務が世界にとって必要なのかは関係なく、蜜を採取する為だけに出かけるのだ。
自分もそうだった、頼まれた勤務に勤めて、自由時間を恋焦がれていた、その時期の自由なんてちっぽけだったな。
どこに女王蜂が居るんだろう、愚にも付かない言葉を考えていると、あの男が出てきた。
時計を見ると昨日と同じ時間だ、自分も昨日と同じ列車に乗れば、動画撮影が出来るだろう。
その後にえりに連絡して、動画を拡散させてみよう、彼女は雑誌に必要なのかも知れないが。
早足で歩く男を少し離れた所から追いかける、駅に向かう人間は朝の緊張と一緒に居て、早足で駅に向かう。
殆どスーツの中で自分は街着で、スーツを着て来れば良かったと後悔が頭に浮かぶ。
誰もそんな事は気にして居ないのに、自分だけが気になって居る、歩いて居る人間は勤務に気が向かっているのだから。
駅に着くと、いつもの列車に乗るために、男が歩いてゆく、人の間にえりの姿も見える。
えりは自分を見つけると、ホンの少し頭を下げて、挨拶をしてきた、自分も同じ様に返す。
列車が来る前に、動画の撮影の用意をして置く、列車に詰め込まれては、自由に動きが取れないかも知れない。
今日も痴漢をするのだろうか?
心の中に疑問が過る、幾ら触りたくても、毎日衝動のままに女性を触るのは気が引けないのだろうか。
疑問は有るが、自分はなるべく動画撮影できる位置に身を置く様にする、これは盗撮に当るから、誰にも知られない様に撮らなければならない。
後のことなど考える間もなく、働きバチの人間たちが列車に詰め込まれてゆく。
その流れに乗って、自分も入って行く、あの男も見える所に居る、近い所に女性も立っている。
昨日と同じ流れになるのか?
撮影しているから、行動に移して欲しいという気持ちと、痴漢なんてするなよという気持ちが鬩ぎ合う。
動きがなさそうだと思っていたら、女性が顔を顰めている。
撮影はしているが、自分で確認している余裕は無い、上手く撮れていると良いが、そう考えていた。