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【小説】SNSの悪夢

駅を出たら、あの男はもう居なかった、彼女のラインを知った所で、自分の目的には近づけない。

この駅で降りたのは解っている、それでも出口は1つじゃ無いから、行った先は解らない、仕方なく何処かの喫茶店に入って彼女の連絡を待つとするか。

家に帰っても良いのだが、あくまであそこは寝場所だ、住まいとは寛げて楽しめる所だ。

その意味ではあそこは住まいでは無くて、寝場所なだけだ、自分は目的の為にあそこに住んでいる、当然寛ぎもない、タダの寝床だ。

動物は寝る時には安心する場所に行く、そう云う意味では動物よりもくつろぎが無いのだな自分は。

そんな風に考えながら、目では喫茶店を探す、カフェなんてお洒落じゃ無くて、出来たら漫画が置いてあるところが良い。

漫画を買って読む事は無くなってきたが、有れば読んでおきたい、漫画で他人の思考が少しは覗ける。

人間誰しも覗き見をしたい衝動がある、例えばここに見てはならない穴が有ったら、道行く人はほぼ覗こうとするだろう。

人間なぞ、そんな者だ。

昔は漫画や週刊誌が置いてある喫茶店が軒を連ねていた、外観も薄暗くて少し怪しい、それでもその怪しさが魅力で人が集たもんだ。

今の時代、漫画の在る喫茶店は少ない、外から見ても有りそうにないお洒落さが売りのカフェばかりだ。

時代か、時代が変わっても人間の本質は変わらない筈なのだがな、そう考えながら探した。

無ければ、洒落たカフェに入って、自分のTwitterで覗き見をしよう、そこには時代が見える何かが在る筈だ。

彼は自分が自ら矛盾の渦の中に飛び込んでいるのを、認識もせずに、SNSを見続けていた。



長時間行く場所もなく駅前の店をウロウロしていると、LINEが入って来る、朝のあの女性だ。

『今仕事が終わったので、お会い出来ますか?』短い文だ。

確かにこれで事足りるかもしれない、連絡はこれで良いのだ、寂しいと感じるのは自分がこんな連絡に慣れてないからかも知れない。

Twitterが発達してから、人間は短い文に慣れて、自分の書くものも短くなっている。

それで良いし、それ以上は必要ないのだろう、長い文にしたければ、AIに任せばいいのだろう。

これからはAIの方が長い文章を作るのだろうな、考えながらこちらもラインを返す。

『今、朝の駅の周りに居ます、教えて貰えば、行きますが。』そっけない返答になる。

自分としてはまだ彼女を信頼したわけでは無い、それでも協力する人間かも知れない、困った時には人間は何でも信じようとするのだ。



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