なんでもいいから『生きる』を見て

皆さんはWOWOW契約してますか?してない方は今すぐしていただきたい。WOWOWは初月無料で申込みから15分程度で視聴がスタートできます。なぜ私がいきなりWOWOWの宣伝をしているかというと、なんとしても見ていただきたい番組があるから。それがミュージカル「生きる」です。このnoteを読む前にとりあえず録画予約してほしい。

ミュージカル「生きる」
鹿賀丈史バージョン 2019年1月12日(土)午後2:30 WOWOWライブ
市村正親バージョン 2019年2月23日(土)午後5:00 WOWOWプライム

このミュージカルは昨年2018年10月にTBS赤坂ACTシアターで上演されました。一言でいえば「あまりにも素晴らしい作品」で、もう一言加えるなら「死ぬまでに一度は観るべき、そして一度観たら一生忘れられない作品」。

とにかく見てほしいんです。でも、舞台も、舞台をテレビで放送するのも、もともと舞台や俳優さんに興味がある方でないと、なかなか難しいとは思います。そこでこの作品のおすすめポイントを勝手にいくつかご紹介します。

あらすじ(公式HPより)

役所の市民課の課長・渡辺勘治は、早くに妻を亡くし、男手一つで息子の光男を育てあげ、息子夫婦と同居している。
そんなある日、渡辺に胃がんが見つかり、自分の人生が残りわずかであることを知る。疎遠になりつつある光男にそのことを打ち明けられない渡辺は、自らの生涯を振り返り、意味あることを何一つ成し遂げていないことに気づき愕然とする。
現実逃避のため、大金をおろして夜の街に出るも、金の使い道がわからない。彼は30年間真面目一筋を貫き、自分の金で酒を飲んだことすらなかったのだ。そんな時、居酒屋で売れない小説家に出会う。渡辺の境遇に興味を持った彼は、“人生の楽しみを教えてやろう”と宣言し、盛り場を二人で何軒もはしごする。しかし渡辺の心は一向に晴れず、虚しさばかりが募る。
翌日、役所の後輩・小田切とよが渡辺の元を訪ねる。渡辺は、はつらつとしたとよの初々しさに触れるうちに、自分の人生になかったものを見出すようになる。そしてついに、わずかな余生でなすべきことを、見つけるのであった…。

見どころ(WOWOWの紹介ページより一部抜粋)

余命半年を告げられた男の人生を通し、今を生きる人たちに「人生をどう生きるか」という普遍的なテーマを問い掛けてくる感動作。市村、鹿賀は同じ役でありながら、異なったアプローチで役を極め、まったく違う感動を観客に投げ掛け、その名演に劇場は連日スタンディングオベーションに包まれた。
誰もが知る名作のミュージカル化、生身の人間が舞台上に立ち歌うからこそ、この作品が持つ生命力が際立ち、あらためて生きることの喜びをかみしめることのできる作品だ。

ここでしか見られない豪華なスタッフ・キャスト陣
この作品は黒澤明監督の没後20年記念作品でもあり、彼の代表作『生きる』をミュージカル化したもの。脚本は「アナ雪」の翻訳で話題になった高橋知伽江さん、演出は宮本亜門さん、作曲・編曲はブロードウェイで活躍されているジェイソン・ハウランドさん。主演は市村正親さんと鹿賀丈史さんのWキャストで、そのほか出演は初ミュージカルの市原隼人さん、などなど。

ミュージカルだけど日本人でも馴染みやすい
黒澤明監督の映画をミュージカル化するというのは世界初の試みで、業界ではめずらしい、日本発のオリジナルミュージカルです。音楽、舞台美術などすべてゼロからつくられたわけなので、演劇ファンからするととても贅沢なこと。一方で、普段演劇をあまり見ない方からすると、とっつきにくさもあるかもしれません。特にミュージカルというとヨーロッパの歴史物がどうしても有名ですが、今作は日本人が演じる、日本人の物語。誰にとっても親しみやすい作品になっています。

「誰かを思う」凡人を描く、シンプルで強い作品
「生きる」というタイトルからもわかる通り、これは主人公の渡辺が「いかに生きるか」の物語で、私はそれだけでは、うーん、よくある、としか思えなかったです、正直。
私がこの作品を観ようと思った決め手は、公演が始まる前にやっていた特集番組での、市原隼人さんの言葉。これまでミュージカルへの出演は敬遠してきたけれど、この作品で描かれる「父と息子」の姿に、体調を崩してしまっているご自身のお父様とのことが重なって、出なければならない、と思ったんだそうです。
人が生きるということは、誰かのために、何かをすること(もちろんその「誰か」が自分自身でもいいと私個人は考えている)。この作品は、ご家族や、恋人や、友人や、将来の夢とか、仕事とか、人が生きるうえで避けられない、欠かせない、一番シンプルなところを、びっくりするくらいシンプルに描いていました。
ご都合主義で、いろんなことがうまくいく、なんてことはありません。主人公が成し遂げたことは、とてもささやかで、誰かのためになったかもしれないけれど、誰にも変化を及ばさないようなことでもある。
でも、だから強い。ただ彼がどう生きたか、の物語であって、彼は凡人のまま。偉大なる英雄にはならないんです。そこは揺るがない。そこにウソがない。
思い切って断言するけど、「生きる」は、誰にとっても、どこか心の奥底に響く作品です。

音楽だけでも聞く価値あり
とにかく音楽がいいです。物語の舞台は昭和の日本ですが、日本くささ、昭和くささ、古臭さみたいなものがいい意味でまったくない。だけどどこか懐かしさの漂う、それでいて洗練された楽曲ぞろいでした。
とくにクライマックスの一曲は、「天才」でも「革命家」でも「王様」でもない、ただの平凡な日本人の物語にふさわしい、一人の人の人生にそっと寄り添う優しさと、周囲の人の思いを包み込んでくれるおおらかさのある名曲…。うまく伝わっていないと思うので、よかったら公式HPとYOUTUBEで視聴してみてください。

作品をより楽しむための3つのキーワード
ここでどこまでストーリーや演出のネタバレになるものを書くか、悩んだんですが、より作品を楽しんでいただけるように、という視点から、私が勝手に着目してほしいキーワードだけ書いておきます。

①「帽子」
余命幾ばくもないと知り自暴自棄になった主人公の渡辺は、夜の街に繰り出し、帽子を失くしてしまいます。公務員の彼が毎日「制服のように」身に着けていた帽子。それがこのミュージカルでは彼の「生きる意味」の象徴として使われている。

②「ブランコ」
その後、彼は町に公園を造ろうと奮闘します。なかでもこだわったのはブランコでした。なぜブランコなのか――それが渡辺が見出した、自分の「生きる意味」そのものだったりする。

③「青空」
「帽子」と「ブランコ」は、公式HPなどでもメインのビジュアルイメージとして使われています。ここに今回のミュージカルで新たに加わってきた重要な要素が「青空」。上でも「青空に祈った」という楽曲を貼りましたが、雪が降るなかブランコに乗っているのに、なぜ青空なのか、青空に祈るのか。黒澤明監督の「生きる」はモノクロ映画なので、青空という描写は視覚的にはほぼ不可能。だからこそミュージカルで、この青空というイメージが生きた。

すべてはただ一瞬の「画」のために
ラストシーン、舞台装置が動いて、とある情景が観客と、渡辺の息子の前に広がります。その光景があまりに美しく、このミュージカルは、この一瞬のためにつくられたんだ、と思いました。
私の大好きな宮崎駿も「映画は、なんだかよくわからないけれどすごい、と思わされる絵がないとだめだ」というようなことを語っていて、ストーリーより、キャラクターより、何よりまず「素晴らしい画があること」が映画の必須条件だというモットーを持っています。
私は舞台も同じだと思っていて。ただ心奪われる、言葉でも音楽でも物語でもなく、ただその空間にいると身体で感じる何かがある、それこそが「いい演劇作品」の醍醐味だと思う。ミュージカル「生きる」にはそれがあります。
そのシーンにセリフはないです、だけど、音楽、照明、舞台セット、小道具、役者……最高の演出で、一瞬で、何が起こったのか、わかる。その瞬間に、ただ心ふるえる。そんな体験を、テレビの画面越しでも、一人でも多くの方に、してもらえたらいいなって勝手に思ってます。見て!

ミュージカル「生きる」
鹿賀丈史バージョン 2019年1月12日(土)午後2:30 WOWOWライブ
市村正親バージョン 2019年2月23日(土)午後5:00 WOWOWプライム

ついでに、こちらは製作発表について。私がいろいろ言うより、これ読んでいただいたほうが見たいと思ってもらえるかもしれないので、読んでください笑


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