「百合子がととのうまで」
第2話 『大沼百合子55歳、独身。香川ぽかぽか温泉にも行く』
2度目まして。大沼百合子と申します。大沼です。小さい池の百合子に似ているとよく言われますが、全くの別人です。
さて。サウナーの皆さん。前回の私のお話、読んでくださいました?
前回は香川県の仏生山温泉について書きましたが、実はその翌日、同じ香川県にある「香川ぽかぽか温泉」にも行っていたのです。なんで仏生山からそのまま埼玉に帰ったことにしていたのかって? そう言われても、ねえ。
女は気分だから。
仏生山温泉に行った日はすごく晴れていたんだけど、この日は雨。飛行機は夕方の便だからもう一つくらいサウナに行っておこうかしらと百合子考えたわけ。スマホで検索していたらいきなり、埼玉に残してきた爺やから着信。
「女将さん、今どこにいるんですか!!」
「・・・香川よ」
「香川・・・?」
爺やは何か察したのね。それ以上は何も聞かなかった。ただ思い出したようにポツリと一言、
「女将さん。今年の八月に高松ぽかぽか温泉がオープンしたそうですよ」
「ぽかぽか温泉?」
「伏石店や、ぽかぽか丸亀もあるんで気をつけてください。オープンしたのは高松ぽかぽか温泉ですから」
電話はそれで切れた。爺やは何でもお見通しなの。私が今、サウナを求めていることもね。何だか悔しいけど爺やの言う通りに、高松ぽかぽか温泉を目指すことにしたわ。
ここよ。いい感じでしょ。
この隣に同じような茶色い建物があるんだけど、私、最初はそっちに行ってしまったのよ。そしたらそこは不動産会社かなんかでさ。もう少しで入ってしまうところだったわ。紛らわしいったらありゃしない。みなさんもお気をつけあそばせ。
オープンしたてだけあって、綺麗だったわよ〜。広いし。月曜の昼なのに結構人もいたの。ここのコンセプトは「森の中に佇む癒しと遊びの場」ですって。コンセプトは大事よ。「都民ファースト」っていうのもあったじゃない。しかもここは「友人、恋人のみならず親子三世代で訪れても一日中遊べる大型温泉施設」だって言うじゃない。そこに「おひとりさまでも」と加えてくれたら満点ね。
お風呂とサウナは二階なんだけど、その階段横にこんなものがあったのよ。「遊び場」の一つね。
百合子はもちろんチャレンジしたわ。何でも挑戦しないと人間伸びないから。登りながら思い出したの。そういえばインスタでkenさんて人が、いつも日曜日にボルダリングの投稿していたこと。その人、そのあと大体サウナに行くのよ。kenさん、ここなら一度で済むわよ。
あ、・・・手が滑った。
無様な姿は見せたくないから、このままお風呂の話にいくわね。
お風呂もサウナも良かったわよ。高濃度人口炭酸泉は「心臓の湯」ですって。露天は人肌の温度にしてあって「不感温湯」と言うみたい。いつまでも浸かっていられるからそういう名前なのよ。サウナも2種類。塩サウナは人が多かったので、私は広い5段あるサウナの方へ。新しいヒノキの香りを胸いっぱいに吸い込みながら、じっくり汗を流したわ。何度あるか温度計が遠くて見えなかったんだけど、ピリピリはしなかったから最上段で80度くらいかしら。テレビではバイきんぐの小峠さんが映っていて、この人の冷めた感じ、嫌いじゃないわと思いながらしばらく見ていたわ。
この「ぽかぽか温泉」で一番気に入ったのは水風呂ね。2種類あるの。22度と14度。野暮な質問はしないでね。私はもちろん14度に入ったに決まってるじゃない。広くて深くていい水だったわ。ととのい椅子は中にも外にもあったから、雨の外気浴もいいかと思って最初は外の椅子に座ったの。でもなんか入り口に近いせいか落ち着かない。まあ、動線的にはここがベストなんでしょうけど。そこで2セット目は水風呂の隣にある椅子に座ってみたわ。こっちの方が私はよかった。
温泉好きもサウナ好きも、どちらにも満足できるように作られているし、コンセプトにあるように全体的に落ち着く空間になっている。ここなら一日過ごせそうよ。爺や、いいところを教えてくれたわ。
喉が渇いたので1階のレストランへ。でもがっつり食事をする気分でもないので、再び2階に戻って軽食ができるところへ。ビールの種類が色々あったのもここにした理由ね。
百合子セレクト↓
ビールは「インドの青鬼」とか言ってたかしら。私好みの苦味ばしった深い味。一緒に頼んだのはコッペパンにあんことクリームが挟まったもの。名古屋か!
でもね、この組み合わせ悪くなかった。このパンがぽかぽか、ふかふかなのよ。やわらか〜いパンにこの和洋の甘さがマッチングして、苦いビールが進むの。何でも挑戦してみないとわからないものね。ここでも百合子、成長したわ。
さて、そろそろ空港に行くことにしましょうか。ちょっと早めだけどお土産も買いたいし。でもここから空港までどう行ったらいいのかしら。来るときはホテルから電車やバスを乗り継いで来たから。そこで1階のカウンターで、スタッフのお姉さんに聞いてみることにしたの。
「ここから高松空港まで、どのように行けば良いのでしょうか」
「空港ですか・・・?』
お姉さん、ちょっと悩んでたわ。羽田から飛行機に乗ってここに来る人も、飛行機に乗って帰る人もおそらくいないのね。お客さんは私が見る限り地元の人多し。お姉さんは他のスタッフさんにも聞いてたけど良い方法が見つからなかったみたい。「お待ちください」と慌てて奥に入ってしまったわ。しばらく待ってたら走って戻って来て、こう言ったわ。
「空港までは、タクシーが一番いいと思います」
・・・そうね。そうだと私も思う。でもそれじゃ味気ないから、百合子はバスを乗り継いで、空港まで行くことにするわ。
自動精算機でお金を支払いました。最新式よ。でもごめんなさい、ビール一杯で酔ってしまって、全部でいくら払ったのか覚えてないの。無職だからってお金に執着しないタイプなのよ。
外はまだ雨が降り続いてる。
バス停に立って、来た道を振り返ったら、
百合子の「ゆ」の字が遠く霞んで見えた。涙じゃないの、雨のせいよ。
寂しい。
爺やに何を買って帰ろうかな。
高松駅までバスで行き、そこでお土産を買ってから再びバスに乗って高松空港まで行きました。そうそう。高松駅のおみやげ屋さんで、ある夫婦が店員さんに聞いていたの。
「ちょっと失礼なことをお尋ねしてもよろしいですか」
って。失礼なことって何かしらと思わず聞き耳を立てたわ。そしたらその奥さん、
「ここより大きなお土産やさんて、ありますか?」
ですって。本当に失礼で笑ったわ。でも店員さんは嫌な顔一つせず、
「大きなお土産やさんは小豆島にあるんですけど、この高松駅付近では、うちが一番大きいと思います」
と笑顔で答えてたわ。そうか、ここから小豆島にもフェリーで行けるのよね。そこにはお土産やさんがたくさんあるのか・・・と考えてたら、行ってもいないのに小豆島名物のオリーブ油で作ったクッキーをお土産に買ってしまったわ。
爺や、喜ぶかしら。
埼玉に帰って二人でクッキーをポリポリ食べてたら、爺やが言うの。
「女将さん、ととのいましたか?」
って。ととのうわけなんかないじゃない、だって私は・・・と言いかけて飲み込んだ。まだ言えない。無職になったこと。だってこれまでも爺やには散々心配をかけてきたから。
これから少しずつ私の過去についてもお話ししていこうと思っています。でも今日はここまで。作者が言うには、まだコンセプトが固まっていないんですって。
じゃ、またお会いしましょう。
大沼百合子より(代筆 サウナのサチコ)
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