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「気配を消してきて」:冒険の前編

偶然トルコに来ていた親戚から、
ディナーのお誘いを受ける。

「どこに行きたい?」


この親戚は
美味しいトルコを知り尽くしている。
毎年数ヶ月単位で滞在しているというくらい
トルコが好き。

私達は、
「美味しいトルコ料理が食べたい、できればローカルなカフェテリアみたいなところで」とリクエストをした。


「いいよ。
ただし、気配を消して来て」と言う。

了解。
こうやって言ってくれるのは、彼の思いやりだ。



お店の場所を事前に送ってもらった。

ピンが打ってあるのが
道の上。

んん?

「お店の名前は何?」
「お店の名前?無いかも。」


タクシーだと
道も細いからエリアに辿り着けないと思う。
トラムと徒歩で来た方が良いよとのアドバイス。

オッケー、覚悟を決めた。
本気でローカルなエリアだ。

街の中の人々の装いは、
まだ寒さ厳しい中で
黒や紺色の防寒着を纏っている印象だ。
そしてジーンズを履いている人を多く見かけた。


私も寒い街に馴染むように
紺色のジャンパーに
濃い色のジーンズと
スニーカーを履いた。
アクセサリーもなし。
髪の毛も覆える様に
紺色のスカーフも肩にかけて準備完了。


トラムを乗り継ぎ、坂道を歩いた。

ローマの遺跡、水道橋があるのだが、
市民の人達には見慣れた風景。
誰も見上げていない。


細い路地にプラスチックのテーブルが並ぶ。
石畳の上。

映画なら
警察が来たら
退かすってパターンじゃないか。


市民の胃袋という感じで
活気がいいい。


親戚がニコニコしながらやって来た。
静かに久しぶりの再会を喜ぶ。
目立たないようにね。

用心した方が良いエリアというのは、
肌で感じた。

ここは黙って食事を頂こう。

トルコ料理とはこういう物か。


パプリカの香辛料がまろやかな味わい。
スープもベースはアラブ料理にもよくあるレンティル豆。
素材は同じでも、ハーブが効いて、アラブ料理とは一味も二味も違う味わいになっている。

普通の食堂、
飾らない食器類に、
盛り付けも家みたい。
一品一品にシェフの魂を感じる料理だった。

お通しに頂く
デーツは大きくてかみごたえのある見事な種類で
パン(ホブス)は厚みがある。
中はフワフワ外はカリパリで美味しかった。


こんなに美味しいレストランをどうやって見つけたの?
すごいでしょ。

話したのは、それくらいだった。
〆のチャイを頂き、
食事が終わる。


じゃあ、って別れた所で、
なんだかホッとしたのだけど、
久しぶりにケータイを手にして
夫の顔色がちょっと変わった。


「あっ、充電終わってる。」
「私のも。。」

娘がガサガサと
リュックの中から
ホテルの人にもらった地図を出した。
「大丈夫だよ」


冒険っぽくなってきた。

(後半に続きます)