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名も知らぬ知り合い

今すんでいる街にはいろんな人がいる。

異様に口笛が得意でハリのある音でメロディーを奏でる「くちぶえおじさん」。映画に出てきそうな元ヤン風のゴツめの風貌で毎朝こどもたちの交通整理をする「サングラスおじさん」。会うと桑の実やぶどうの実やトマトをくれる「桑の実おばさん」。

今日も道を歩いていたら知らないおじさんから、「野菜いるかね」と言われて大量に野菜を受け取った。ナス、ピーマン、トマト、どんどん出てくる。私がもっと大きい袋を持っていたら入るだけ入れこもうとしただろう。たぶんわたしは彼を「夏野菜おじさん」と名付けると思う。

大人になってこどもを産んで街に根付いて暮らすようになってから、名前も知らない知り合いがたくさんできた。でもお互いに顔は覚えている。あ、こういうのを顔見知りっていうのかあ、とポンと手をたたいた。

名前も知らないから勝手に名付けている。私と娘の顔が似すぎているからわたしたちは「ふたご親子」と名付けられているかもしれない。

夏野菜おじさんに会うちょっと前に、くちぶえおじさんに会った。くちぶえおじさんは、いつものように軽快なメロディーを奏でながら歩いていて、私たち親子を見つけるとニッコリした。ずんずん近づいてきて、「夏休みの宿題はしたかね?」と聞いた。「半分くらい」とむすめがはにかみながら言うと「わっはっは、かわいいなあ!ほんとうーに、かわいいなあ!」と笑う。

おじさん、と名付けたけど、もうだいぶおじいさんだ。わたしはこの人の姿が街中から見えなくなったら不安に思うし、もし亡くなったと知ったらとても悲しむと思う。田舎と都会のあいだのような街だから、たかだか顔見知り程度ならそういう情報はきっと伝わらない。

長生きしてくださいね、と心の奥で呟いた。

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