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幸と花と言の葉 風待月と紫陽花

紫陽花はまるで
無数の蝶たちが輪をつくり
羽を広げ
皆で陽の光を浴びて
瞬くように。

それは
銀河の瞬きと
同じように感じる。

生まれ、生きて
それを
孤と表すならば
いささか、尊さを感じる。

孤独、という言葉には
人が生まれ、生きてゆくことに
添えられた、掠れた音がする。


六月は風待月という。

雨の中で
水が滴り、光り、
色づく紫陽花に
風が吹き抜ける時、
その風に揺れながら
紫陽花は半ば
ここではない、どこか、に在る。


幸は
囲われた狭い部屋の中で
風を待っていたのかもしれない。

いつか、
風がやって来たなら
わたしを
ここではない、どこかに
連れ出してくれる。

幸はそう
思っていたのかもしれない。
それは
誰にも怒られたり
強いられたりしない、
穏やかな日に
ふと見る、儚い夢のように。

春夏秋冬、幸は風を待っていたのだろう。



幸について
2019年にドックトレーナー運営の
保護団体に保健所から引き出され
2020年3月に私の娘になった
元繁殖犬の柴犬。
穏やかに暮らしていたが
末期癌とわかり、2023年9月に生涯を
終える。

幸は
美しい3年半を私に経験させてくれた。
かわいらしい顔、優しい性格、包み込むような
母性を持った純粋な魂だった。

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