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迎え盆の日に開けてみたクローゼット

迎え盆の日は提灯を持って、お墓に母と祖母を迎えに行く。

何の気なしに、実家の2階に上がってみた。年を取ってから両親は寝室を1階に移したので、2階は誰かが泊まりに来た時くらいしか使わない。私も滅多に上がらないので、本当に久しぶりだ。

アルバムの入っている戸棚を開けてみたら、20年以上前に私が家を出た時と何も変わらない、私たちの子どもの頃や、両親の若い頃のアルバムが並んでいた。見慣れない缶を開けてみたら、亡くなった祖母の家から持ってきたらしい白黒の写真が出てきた。

両親の元寝室のクローゼットを開けたら、見覚えのある母のブラウスやスーツがきれいにかかっていた。1階のクローゼットの服はずいぶん前に父が片付けたのだけれど、ここの服は見落としていたのだろう。
生前の母の姿がまぶたの裏にありありと浮かんできて、久しぶりに胸が締め付けられるような気持ちになった。人は彼方に行く時、本当に何も持っていけない。まるでまだ生きているかのように、物たちはここにあり続けるのだ。

お盆で帰ってきた母が、私にだけそっと思い出を味わわせてくれたのだろうか。誰にも話さず、そっとその扉を閉めた。もう少しの間、母の気配をこの世にとどめておきたい気持ちになった。

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