九州ツーリング その23 熊本
4/6(木)朝、熊本の街を歩いている。
駐輪場で借りた傘を差し
大小のリュックとヘルメットを持って。
雨は小ぶりだ。
サクラマチクマモトという
ショッピングモールの横を歩く。
後で入ってみよう。
まずは、荷物を減らさねば。
地下に降り、バイクのところに戻った。
当たり前だけど
バイクがそこにあることにホッとする。
カッパも無事だ。
ほどよく乾いている。ありがたい。
大きなリュックをバイクの後ろ側に積む。
雨が入らないように
開口部をしっかり折り込み
積載用のベルトでギュギュッとしばった。
自分に言い聞かせてその場を立ち去る。
ヘルメットはもちろん手に持っている。
カッパもそのままだ。
これから少し熊本観光をする。
そのために、手持ちの荷物を減らしたかった。
相棒。荷物よろしくね!
もう一度、地上に戻る。
まずは、お城へ!!
外に出ると、桜が満開だった。
お城を探す。熊本城だ。
お城に行けたらいいなぁと思い
宿をお城の近くにとっていた。
見えた!!
けっこう遠い。
もう少し近づいてみる。
交差点まで来た。
見上げるような高さにある。
信号は青になったけど
足が進まなかった。
きびすを返し、振り向くと
サクラマチクマモトが。
なんとなく横浜のコンチネンタルホテルに
似てるなと思いつつ
建物の中に入ることにした。
そう思っているので
歩いていても肩身が狭い。
でも、行きたいところがあった。
エレベーターで上がる。
地図を見て、場所を探し…
見つけた!!
サクラマチクマモト
ここにストリートピアノがあることを
調べていたのだ。
ワクワク✨
淡路島の道の駅で見つけた時も思ったが
ピアノが弾けるって素敵だ。
耳コピは苦手なのが、少し残念だけど。
でも、今日は楽譜がある。
少し進むと受付があった。
勝手に弾けないらしい。
受付に名前を書いたら
『20分間弾けますので、ごゆっくりどうぞ』
と言われた。
そう思ったけど
そんなにレパートリーはないし
フェリーの時間もある。
というわけで、一曲だけ弾いた。
2階の通路
エレベーターの下側にあるピアノは
建物の中でよく響いた。
少し、物悲しい音が曲に合っていた。
この楽譜は、高知の幼馴染の家で見つけたもの。
ここで弾くためにコピーしてもらっていた。
旅の途中で坂本龍一さんの訃報を聞いた。
なんだろう。
心に穴が空いたような喪失感。
もういないんだなと思う気持ちと
こうして弾けば、今もここにあると感じる想い。
音楽は不思議だ。
音符をたどれば、永遠に出会うことができる。
メロディを聴けば、その人を思い出す。
坂本龍一さんの曲
戦場のメリークリスマスも思い出深い。
ストリートピアノには
周りのアナウンスも入る。
それがその場を思い出させてくれ
唯一無二の音源となる。
名残惜しかったが、旅は続く。
この後、お土産を少し見て
また駐輪場に戻った。
管理人さんに傘とロックを返し
カッパを着て、いよいよ出発だ!
熊本港へ向かう。
いくつかルートはあったが
一番曲がる回数が少ない道を選んでみた。
管理人さんに会釈をする。
いい駐輪場だった。
ゲートを通過し、地上に上がり始めようと
前に進む。
とたんに、ハッとする。
スロープが曲がっていく。
ゲートの出口方向からは覚えていたけど
スロープの向きが変わると
熊本港がどっちにあるのかわからない。
スタートしてすぐなのに…
もう途方に暮れている。
スロープの途中では止まれないから
仕方なく、そのまま地上に出る。
この雨で、グローブを脱ぐのは嫌だった。
スマホは素手じゃないと動かない。
地図を見たいけど、これでは無理だ。
当たり前だが
入り口とは違う方向に出てきている。
すぐの路肩に停まった。
横を車が不審そうに通り過ぎる。
バイクに乗ったまま、辺りを見回す。
ふらついて転びそうだ。
視野が狭くなっている。
ひとつ大きく息をして
一気に湧き上がった不安を少し落ち着かせた。
サクラマチと駐輪場の位置関係を思い出す。
サクラマチを背に、走り出せばいいはずだ。
しばらくじっと辺りを見て
頭の中の地図と照らし合わせて…
目の前の本通りに出て
国道3号線に向けて走り出した。
無事、国道3号線に合流できた。
ここから曲がり角はひとつだけだ。
ホッとしながら、車の流れに乗る。
この安易な考えが
後の苦難を招くとも知らずに…
国道3号線は両側2車線の幹線道路だった。
朝の通勤ラッシュで車は数珠つなぎだ。
右に曲がりたいので右車線を走る。
周りを全部車で囲まれて、また不安が募る。
転んだら終わりだ。
車の流れは悪く、加速減速を繰り返す。
前に集中しないといけないので
視線をそらせない。
集中しながら慎重に走った。
雨がひどくなってきた。
ヘルメットのシールドに水滴がたくさんつく。前方が見えにくい。看板が読めない。
看板に頼ればいいと思っていたわたしは
曲がり角までの距離を調べておかなかった。
辛抱して車の列に並ぶ。
雨が本格的で、看板の字が読めない。
宇和島でホテルを通り過ぎたことを思い出す。
そもそも今、フェリーまでの時間がギリギリだ。
道に迷っている時間はない。
そう思って走っていたら
右手にローソンが見えた。
次の信号で右に曲がった。
ローソンの建物の脇にバイクを停め
防水ケースに入ったスマホを見る。
交差点はまだ先だった。
もう一度、元の道に戻った方が良さそうだ。
今度はちゃんと確認する。
まだ2kmもあった。
濡れた手を拭い、もう一度グローブをつける。
雨の中にまた入っていった。
右車線を走る。
今度は慌てない。
看板はよく見えないから
バイクのメーターを頼りにする。
県道51号線に行きたいから
51か熊本港の文字が見えたら…
それでも看板をあてにしてしまう。
メーターが近い数字になってきた。
勘のようなものが働いた。
前の車に倣い、一緒に右に寄った。
右折。
進路を西へと変えた。
雨がひどくなってきた。
ヘルメットのシールドに
大粒の雨が打ち付けられる。
濡れたシールドで視界が歪んで
ものの輪郭がよく掴めない。
周りには車がいないのか
前の2台しか見えないのか。
周囲の様子がわからない。
信号すら見えなくなってきた。
前に危険が迫っていても
何も察知することができない。
離れて単独で走れるとは思えなかった。
ハンドルをしっかり握る。
ブレーキはすぐ対応できて
かつ握りごけしないようソフトに指をかけて。
恐怖で体が強張ってくる。
力を抜かねば!!
前の車が減速した。
後ろについて一緒に減速する。
停まった。信号らしい。
信号の色はやっぱり見えない。
風も強まってきた。
暴風雨だ。
必死で考えていた。
恐怖で身がすくんだ。
Uターンした方がいいのでは?
昨日の高速を思い出す。
昨日は怖くなかった。
なぜ怖くなかったのか?
路地と信号がなかったからだ。
加減速をしなくてよかったから。
横から何か出てくるシチュエーションが
なかったから安心して走れたんだ。
『高速にした方がいい』
そうアドバイスしてくれた意味を
今、痛感していた。
前が見えない中、
周りに注意して走ることなんてできない。
前の車が発進した。
泣きそうになりながら
つられてバイクを発進させた。