本当の話 続き

この間、動悸がして

書けなくなった続きを書こうと思います。


*****


年が明けて

私は、彼女とメールのやり取りをしながら

ワードや行動で気になることがあった時

役所の職員さんにメールをするようになった。


どうして、緊急性があると思うのか?

どの言葉や行動が気になるのか?


専門家ではない私が

支援者でもない私が

でも、できることは、【事実を伝える】こと。


聞き流せない言葉と行動を

ただ、見聞きしたこととして

淡々と報告するようになった。


でも、それに対して、役所からは

あまり良い返信がもらえなかった。

そのことが、役所と私の間に距離を作った。


彼女は、育休中で

保育園の申請をしていた。


彼女が仕事に戻れたら…

もし、鬱がひどくなり、仕事に戻れなくても

子どもを預かってもらえたら…


心から保育園の入所優先ランクを

上げてもらえるよう願っていた。


保育園の入所発表までは長い。

11月頭に申請して、わかるのは1月末だ。


1月末。彼女から

「保育園、落ちちゃいました。」

と連絡が入った。


「落ちた?」

あんなに救いを必要としているのに?


唯一の希望だった(と思う)

保育園入所が叶わなかった。


母の体調不良も入所の理由になるはずなのに…


私は、ご主人とも親しかったので

彼女とは別に、ご主人ともメールで

連絡を取り合っていた。


そのご主人からのメールの返信が

だんだん滞るようになり

メールの内容に不安な内容が

増えるようになっていった。


ご主人も鬱になってきている…


不確かだけど

そんな不安が心に広がるようになった。


2月の半ば、私は彼女に入院を勧めたくて

でも、そのことが言えなくて

悶えるように、うちで悩んでいた。


「入院した方が良い」

「ご主人と距離を置いた方が良い」


だんだん家事ができなくなっていく自分が

ご主人にとって役に立たないと

迷惑をかけている自分は

いなくなった方がいいと

彼女は、メールに書くようになっていた。


ご主人からも

鬱のことがわからず

些細な行き違いで怒ってしまったり

どうしてよいかわからない不安と

先行きの見えない疲れが

メールからは感じられてきた。


「入院した方が良い」と

役所は勧めているのか?


そのことが聞けないくらいに

職員さんとは、距離ができてしまっていた。


専門家じゃない私が感じる

【緊急性】と【対応策】。


話したところで、笑われそうで

勇気が出なくて、言えなかった。


ついに、彼女は

「お風呂に入れなくなってしまいました」

と言うようになった。


私は、彼女に会いに行った。


やはり、彼女は

「お風呂に入れなくなってしまったんですよ」と

悲しそうな笑顔で私を迎え入れてくれた。


【お風呂に入れない】

とは、どんな感覚なのか?


今もよく思い出す、この言葉。


起きられなくなって

家事ができなくなって

身の回りのことができなくなって

自分のことができなくなる


彼女は、ご主人を愛していた。

迷惑をかけたくないと思っていた。


私は、鬱から生還した友人を思い出した。

その友人と彼女を会わせたらどう?


思わず、私はその話を彼女にした。


彼女は、「ぜひ会いたい!」と言った。


さて、これはアドバイスになるのか?

役所へ確認を取った方がいいこと?


少し、私は判断に迷ってしまった。


そして、役所に連絡するのをためらっていた時

彼女からメールが来た。


「鬱から生還した人がいないか

  【ネットサーフィン】をしたんですけど

  見つからないものですね。」


ネットサーフィン?

そんなことができるほど元気なんだ…


私は、思っているより元気そうな

彼女の行動と言葉に、一瞬、気が抜けて

すぐに返信をしなかった。


けれど、気を取り直し

私は、友人に連絡を取り

ご夫婦で会ってもらえる了承を得た。


そして、次の日の朝イチに

意を決して、私は役所に電話をした。

友人夫婦と彼女を会わせるために

その許可をもらうために。


9時過ぎにかけた電話先で

相手の保健師さんは、明らかに動揺していた。


「あなたも知っているんですね。」

そんなことを聞かれたような気がする。


「何をですか?」

「昨晩、〇〇さんが亡くなりました。

  ご主人が帰宅した時には、もう…」


私は、訳がわからなくなった。


元気になったように感じた。

だから、少し返信の間を開けても大丈夫だと

友人との約束を取り付けてから

役所にきちんと許可を取ってから

全てがクリアになってから

その話を彼女に告げればいいと思っていた。


その彼女が、もうこの世にいない…?


その後、少し記憶が途切れる。


次の記憶は、役所の職員さんを

電話で罵倒している記憶だ。


「だから、言ったじゃないか!!!

  もし本当に、死んだらどうするんだ?って。」


泣きながら、大声で職員さんを罵倒して…

でも、職員さんは、最後まで

何の言い訳もせず

私の話を聞いてくれていた。

そのことで、私は後に救われることになる。


私は、激しく悔いた。

すぐに、返信しなかったことを。

「今、友人と役所に連絡を取ってるから

  少し待ってて。」と言わなかったことを。


彼女からの最後のメールは

命日の2日前だったと記憶している。


明日が、その命日だ。

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