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言葉は願い(バイクから) #ことば展覧会


僕はバイク。
名前はまだ無い。

今は実家のバイク屋にいる。
年末年始はここで
ゆっくり過ごすつもりだ。



実家を出たのは、2ヶ月前。
ある人の家に行くことになったんだ。

さちさんと言うらしい。
10年ぶりにバイクに乗るんだって。

女の人だからって心配はしてない。
だって、ずっと趣味で
レースをしていた人らしいから。

どんな人だろう。
気が合うだろうか?

僕は走るのが好きなんだけど
色んなところに行ってくれるかな?

ドキドキするけど楽しみだ!



今日は、さちさんが来る日。

初めて会った時
さちさんは、僕の顔を見なかった。

僕に話しかけることもなく
バイク屋さんの説明を聞いて
静かに僕に跨って
雨の中、走り出した。

初めての雨の中は大変だったよ。
50kmも走ったんだ。

夜で何も見えない。

さちさんも
ヘルメットのシールドを開けて
顔を濡らして走ってた。

2時間かかって
ようやく着いたんだ。

僕の新しい家。
ここで、これから
新しい生活が始まる。


次の日は、さっそく
ガソリンを入れに行ってくれた。
お腹がいっぱいになったよ。

さちさんは
セルフ給油にドキドキしてたみたい。

こぼされないかと
こっちもドキドキしたよ。

その後、海が見える道に
連れて行ってくれたんだ。


次は、朝日を見に
その次は、夕陽を見に
連れて行ってくれた。

運転はスムーズだったよ。
ちゃんとエンジンの慣らしもしてくれる。
僕は、だんだん安心して
飛ばせるようになってきた。


ある日、真っ暗な中、起こされた。
何事か?と思っていると
目の前の車も準備を始めてる。

一緒に走るのかな?
どこに行くんだろう?

車の後を追いかけて
高速道路を霧の中走ったっけ。

気がつくと、遠い海まで来ていた。


その日は走ったね。

海沿いも走ったし
峠道にも連れて行ってもらった。

最高だったよ!
コーナーは得意なんだ。

さちさんは
タイヤの慣らしをしてくれてたよ。

大事に乗ってくれてるってわかる。
僕もこれからが楽しみだ!



でも、僕は今
実家に戻ってきている。

海に出かけた翌日に
怪我をしたからだ。

どうして怪我をしたって?

事故に遭ったんだ。
バイク同士の事故さ。

僕に気づかずに
目の前をUターンしたんだよ。


避けられなかったのかって?
気づいてから3秒後には
ぶつかっていたからね。

無理だったと思うし
何より、さちさんが
僕に初めて話しかけたんだ。

「ごめんね」って。

僕は何となく意味がわかったから
さちさんの考えた通りに
相手のバイクにぶつかったよ。

痛かったけどね。

でも、さちさんも怪我をしてた。


僕とさちさんは大怪我をしたけど
後悔はしてないよ。

1人の女の子を守ったからね。

だから、痛かったけど
辛くはなかったさ。


その子は、海際の駐車場で
初めて僕の後ろのシートに乗ったんだ。

初めの写真の海だよ!

ずっと「怖いから乗らない!」って
言い張っていたのに…

車がいない
だだっ広い所だったから
勇気が湧いたのかな?

「乗ってみる!」

そう言って、僕の背中に乗ってきた。


「きゃー!!すごーい!!!」

キャーキャー言いながら
一往復して、降りた君は

「もう一回乗りたい!」

そう言った。


僕は嬉しくて
もう一度、走ったんだよ。


そんな君が
海から帰ってきた翌日
停まっている僕のところに
やって来た。

「乗ってみる?」

さちさんが君に言った。

「・・・、うん。」

少し考えて、君はうなづいた。


僕とさちさんは
君が怖がらないように
そーっと走り出したんだよ。

時速30kmくらいかな。
街中をキョロキョロ見ている
そんな君を感じていた。


大通りに出て
少しスピードを上げた。

君に風を
感じてもらいたかったんだ。

それなのに…

その後すぐに
事故に遭ったんだ。

君は、怪我をしてなかったけど
道路に座り込んで
泣きそうな目で震えていたね。

君を怖がらせるつもりは
なかったのに。

風を切って走るのは
楽しいよって
伝えたかっただけなのに。



昨日、僕の怪我は完治した。
今はかすり傷一つない。

年が明けたら
かっこいい部品を
つけてもらうらしい。

そして、さちさんに
迎えに来てもらうんだ。

さちさんは
元気になっているだろうか?


さちさんとは
事故の時、あの時しか
言葉を交わしていない。

事故の時も
僕のところには来てくれなかった。


今度会った時は
ちゃんと僕を見てくれるだろうか?

僕にまた乗ってくれるだろうか?

僕は、また走りたいんだ。
できれば、さちさんと…



そして、僕には願いがある。

叶うならば
君が、僕を嫌っていませんように。


もし、僕が言葉を話せるなら…

「僕たちバイクを
 怖がってもいいけど…

 どうか、嫌いにならないで。」


そのひと言だけでいいから
話せたらって思うんだ。

話せたらいいんだけどね。


それが… 僕の願い。




*****

拝啓 あんこぼーろ さんの企画に
チャレンジさせていただきました。


ことば展覧会に出展した
ゆりさんに誘ってもらって
私もバイクにおしゃべりさせてみました。


ゆりさん、ありがとう。
バイクの気持ちが
わかった気がしました。


そうしたら
私もおしゃべりしたくなりました。


年末なのに… 年末なのに…

皆さんはサボらずに、年越しの準備を!!







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