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伊東ツーリングを終えて 続


渋滞するからと
トンネルになった交差点。

そこに向かうまで
車の列はスピードを落とし
行進するかのごとく
ゆっくりと歩を進めていく。


国道は徐々に上り
峠を越えたのか、下り始める頃

視界が開け
ふと我に返る。

藍色や灰色だった空が
薄い青になっていることに気づき
夜が明けたことを知る。


不透明に見えた空が
実は雲ひとつない快晴で

手を伸ばせばその先まで届きそうな
奥行きを持った空間だと気づく。


宇宙とつながっている。

そう感じた時
なんと言えばいいんだろう。


上空は、空という
平らな面で終わっているのではなく

その先へと続く空間であり
わたしたちは宇宙と直接つながっている。

閉じていた空間が
一気に無限に広がったような
そんな開放感を感じた。


一方、左手の暖色は
慎ましやかな肌色から徐々に
はっきりした橙色に変わってきた。

「ここから太陽が出てきますよ」と
主張するところからは
特に強い光とともに
きらめきが見えるようになった。


日の出前はこんなに空の色が変わり
太陽が出るまでにこんなに時間がかかるんだ。

建物の隙間から見える
橙色の光を追う。

渋滞しているからみられる景色。
何度も左に視線を向ける。

橙色がさらに深く赤みを帯びて来る。
朱色となり、空を染める。


もうすぐ、太陽が出てくるかな。

そう心待ちにしていたら
建物が隙間なく並ぶようになり
左手は見えなくなった。


トンネル内では渋滞しない。

そう判断してトンネルに入ると
車の流れは急にスムーズになり

国道は二手に分かれて
わたしは海沿いに向かう道を選んだ。


海沿いまでは、一般道。
国道とは一気に趣が変わる。

方角を変えたのと
周りの建物に沈んだ形状の道路のため
左手に太陽を探せなくなる。

通勤の車で
いつもは混まない道が
のろのろといつまでも進まない。


これは、7時は無理だな。

早々に、遅刻を覚悟する。

諦めることで
周りに目がいくようになった。

諦めのいい作用を知った。


海沿いに出た。
松林の隙間から海が見えた。


あっ!太陽!!

太陽は水平線から少し離れて
すでに昇り始めていた。

気づくと、朱色が
黄色味へと変化している。

黄色と言うより金色だ。

赤みが抜けて黄色が強く光を放つと
金色に見えるのか。

また新しく物事を知った気分になる。


松林が切れるたびに
海の方を見る。

海面が日の光で照らされて
きらめくひと筋の道を作っている。

波は目立たず
海の上は穏やかだ。

そう言えば、風もない。


家を出てからずいぶん経つはずと
バイクの時計を見る。

こんなに日の出って遅いんだ。


この時間で早川に7時はやっぱり無理だな。

すでに諦めて
空の移り変わりを堪能しているけれど

改めて遅刻する覚悟を決めて
次のポイントを心待ちにする。


次に見えるのは、富士山!!

この道はもう少し進むと
正面に富士山が見える。

今日は快晴で、雲がない。
雲がなければ、富士山は見える。


もうすぐ見える富士山が待ちきれなくて
ワクワクしながら走っていると…


わーっ!!富士山だ!!!

見えた!真正面だ。


白い衣をまとった富士山が
雄大にその姿を見せている。

日があたり、影を作ることで
山肌の凹凸や谷間の筋がくっきりと見える。

より立体的な富士山が
「おはよう」と言ってくれている。


走っても走っても目の前にいる
いつまで経っても隠れない富士山。

行く先を見つめれば
目の前に富士山がずっといてくれる。


信号が赤になり、停まる。

ふと込み上げてくる感情を抑えられず
気づくと、涙が頬をつたっていた。


バイクに乗らないと体感できないものがある

バイクに乗り
この身で風を切って走らないと
気付けないことがある

日の出までの空の移り変わり
富士山と対峙すること

今日、走ってきたからこそ
知ることができたたくさんのこと


バイクに乗るからこそわかること



バイクを降りる日を考えるのは止めよう。

突然そう思った。


乗りたい間は
好きなだけ乗ろう。

速く走れなくたっていい。

信号で止まってたって
こうして感極まっているじゃないか。


信号が青に変わり
先頭を飛び出すわたし。

あまりにも心揺さぶられ
温かな涙が止めどなく頬を伝っていく。

けれど、わたしは
濡れた頬も拭かず
冷たい風に頬をさらして
バイクを富士山に向かって走らせた。





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