黒の惑わし

ふと、鈴の音が耳を木霊する。
音の鳴る方を振り向くと、其処には黒い猫がいた。

てっきり、猫の首輪に鈴が着いているのだろうと思ったが、
猫に首輪はない。
野良のようである。

鈴の音はどうやら私の空耳だったようだ。
耳が可笑しくなったか。
そう思っていると、猫が私に近寄ってくる。
そして、まるでついてこいとでも言うかのように、猫の金の瞳が私を映す。

猫の瞳につられ、惑わされたかのようについて行ってみれば、
其処には見事な桜が咲き誇っていた。

「綺麗」

思わず見惚れて感嘆の言葉が口から溢れる。

するとクスクスという笑い声と穏やかな声音の男性の声が私の耳に入ってきた。

「気に入って貰えたようで良かった」

そう言った男性は先程の黒い猫のような、見事な黒い髪に、金の瞳。
まるで__
「黒猫が人になったよう」
と私の台詞と彼の台詞がぴたりと重なる。

何故?
不思議に思っていると、黒い猫と出会った時に聞いた鈴の音が木霊した。
音のする方を見れば、男の手には妖しい煌めきを放つ鈴が其処にはあった。

化かされた。
ふと、そんな言葉が私の脳裏を過った。