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生理の不快と

生理歴20年以上。結婚の気配もなく出産の足音も感じることなくとも自分がお腹の中に命を宿すことができる身体で生まれてきたことを、しみじみと毎月感じとることができるのが「生理」だ。


私の生理は28日周期で、腰に鈍痛と全身の浮腫という嫌なお土産を引っさげて毎度訪問してくれる。なんなら数年前から頭痛というオプションも付帯するようになってきた。そんな生理期間でも出勤や外出しないといけない現代人。生理期間中は気持ち的にも安静にしていたいが・・・、女性とはほんとに面倒とセットでできている身体の持ち主だなとつくづく思うのだ。

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さて。生理と毎月向き合う必要がある女性たちは、その期間の外出はどんな気持ちなのだろうか。こんな疑問を抱くのは、不惑の年に突入した私が生理期間中の外出が心底苦手で億劫になるから。

生理期間中は、可能であれば大人であることをすべて取っ払い、スーパーとかの床に思い切り身体をこすりつけ最大限のイヤイヤを子供のようにしたいのだが、そうもいかないのが現実な訳で。そして、そこまで嫌な理由は・・・生理用品の存在感。生理用品という製品は、どのメーカでもブランドでもまぁまぁな大きさのため、かばんの中で存在感が強くなりがちなのだ。それが、すごーく嫌なのだ。

少女時代から、この生理用品の存在感が嫌いでしかたなかった。正直自分は、きれい好きではないのだが、なぜかかばんの中がごちゃごちゃとしているのが子供ころから苦手。成績悪く忘れ物は多く宿題もしない問題児だったが、ランドセルや学生かばんの中だけはこざっぱりと整理しておかないと気がすまない質。大人になった今でもやっぱり通勤かばんの中が整っていないと落ち着かない性分は継続している。

PCにノートに財布、予備のコンタクトや目薬などの細々としたものを入れるポーチや化粧品バック。それぞれの所在地を決めて配置する。ピタッとはまり気持ちが良い。ただでさえ通勤や出社という行為は多くのストレスをもたらすのだから、それくらいの小さい気持ちの良さは常に感じていたい。

・・・にもかかわらず、生理中はそこに生理用品を入れたポーチが追加されることにより所在地が荒らされ、収まりが悪くなる。しかも、経血量にあわせて生理用品サイズが変わり、持ち歩く数も変動するため、ポーチ自体のサイズ感も膨らんだり小さくなったりと変化する。ポーチのサイズ感が変動するから所在地が決めづらく、これが私をイライラさせ、外出億劫感情が爆発するのだ。

ただ苛立たしさを感じているにも関わらず私は、生理ってそういうものなんだと飲み込んでいた。毎度かばんの中が思ったように整理されず、げんなりしていても、乾いた喉に焼きすぎた食パンを口にいっぱい詰め込み、それを飲み物なしでギューッと力強く飲むように、感情を押し込み生活することを選んでいた。それが常識だと思っていた。

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イライラは当たり前で、それを飲み込むことも日常茶飯事なのだと言い聞かせながら20年以上付き合っていた。そんなある日、ぺらぺらと新聞をめくっていたらとある記事が目に飛び込んできた、いや、吸い付いてきたという表現のほうがしっくりくる。「吸水ショーツ」という言葉が私の目にピタピタっと吸い付いてきたのだ。

概要は、ナプキン代わりになるアメリカ製品の吸水ショーツに出会い感銘を受けたとある女性が、日本人女性たちにも広げたいと自身でブランドを創立したという内容だった。

その記事を読み終わるやいなや私の手はすぐにスマホにのび、そしてススッとブラウザーの検索窓に「吸水ショーツ」とか「吸水サニタリーショーツ」と文字をタップしていた。

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「吸水ショーツ」、それは、その名の通りのショーツ。経血をショーツそのものもが吸収してくれる。ナプキンとサニタリーショーツが合体したような製品。サラッと「ナプキンとサニタリーショーツが合体」と書いたが、あるようでなかった全く新しい生理用品。つまり、このちょっとしたアイデアがナプキンを必要としない生理ライフが手に入るというわけだ。

生理中はナプキンやタンポンと一緒に生活する。これは誰が決めた様式だったことでもないのに、勝手にそれが常識だと思いこんでいただけだった。


大手アパレル企業が「吸水ショーツ」の商品展開などを目論見始め、段々と注目度が高くなっているのだが、自分の近くにいる女性たちに目を向けると、「知っているけど挑戦はしていない」「そんなショーツそのものを知らない」、といった状態で、認知度は低く市場はまだまだ未熟だ。ネット検索で文字面での理解は進んだが、生々しい声は私の周りには落ちていなかった。


であれば、自分が生の声になるしかない。そんな意識が高い系のナルシスト的な思いから、この半年間、生理のたびに違うブランドの吸水ショーツを実際に履いて試した。着心地に触れて、洗濯の面倒臭さを体験して、経血かぶれを引き起こしながら、どうやったら吸水ショーツの仲良く過ごせるかを自分なりに検証しながら体感した。そんな中で、これだ!と思ったのは「Nagi」と「Moon」というブランドだった。

Nagiは、しっかりした生地にも関わらず、柔らかく肌心地が気持ちいい。経血量に合わせたパターン展開がされており、生理日によってのチョイスが可能。そして、カラーバリエーションが、今までの生理用ショーツではあり得なかった洗練された色が特徴的だ。

Moonは台湾発のブランド。こちらは薄い生地でサラリとしている。通年で利用できるが夏季シーズンに重宝した。腰部分にレースがあしらっているタイプもあり、エレガントな印象があるショーツ。

どちらも価格も手頃で手を出しやすく、経血の不快感が少ない商品。ナプキンのように経血を吸収してくれるから、外出時に必ずしも生理用品を持ち歩く必要がない。その上、ショーツ自身が吸水してくれる構造のため、横モレの心配が格段に下がった。申し分ない機能性が具備されている。

NagiもMoonもブランドサイトから直販購入したのだが、どちらも可愛く梱包された状態で私の手元に届いた。その姿に乙女心をときめかされた。生理用品なのだけれども、オシャレでかわいい。そう言えばブランドサイトを眺めているときから、どの色にしよう?形はどれにしよう?て、心が踊っていた。

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はた、と気がつく。そうか、かばんの中で強く存在感を放つナプキンの存在が嫌だったのは、かばんの所在地を荒らされるだけじゃなかったんだと。生理のときに、どこかでオシャレを諦めていた自分にイライラしていたのだ。

下着は、よっぽどじゃないと他人には見せない存在。だけども、ぞんざいにはできない。それは私にとっての下着は隠れたオシャレアイテムで、お気に入りの下着は密かに、だけれども確実に自分に自信を与えてくれる。それが、生理期間になると諦めざるをえなかったのだ。ブラジャーとショーツがチグハグになり、そのことに私はストレスを感じていたのだ。生理だからって、なぜオシャレを私は諦めていたのか。

私が知っている生理用ショーツは経血漏れを防ぐための形状に注力されており、その形が野暮ったい。加えて、ナプキンの接着を高めるためだろう、生地は分厚くは着心地もキツいものが多い印象だ。機能の追求はされていたがオシャレは置いてきぼりで、ダサいのが当たり前だった。

ぐっとそのショーツの中に、お尻を押し込めて生活する。窮屈な上に、ダサい。生理で気分も下がっているにも関わらず、感情を上昇させる要素がまるでない。洋服で多少のオシャレはするものの、外見だけを繕っている感じで金メッキ感が否めない。でも選択肢がなかった。そう今までは、それしかなかった。

しかし今、私に生理期間中のささやかな楽しみができた。お気に入りの色でショーツを取り揃えた。だから気分によって色の選択ができるようになった。生理日によってショーツの形状を変えることが可能になった。ショーツが吸水してくれるため、多少小さめでも安心感がある。ブランド側も軽い日用として浅履きショーツのような小さめショーツを展開しているから、そんな楽しみが増やすことができたのだ。

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私の生理ライフスタイルは変わった。激変とまではいかないが、確実に変わった。生理期間中でも下着選びにわずかばかりではあるが瑞々しさが出てきた。

吸水ショーツで過ごすが生理の「当たり前」になった。もとには戻れないくらい、それが普通となっている。生理期間が好きなるということは、なかなか難しいが、それでも辛い期間に小さな楽しみが追加され、以前より心が軽やかになっている。生理の日のどんよりした感情からちょっぴり解放された。

不惑と言われる年齢。生理と向き合う回数も、カウントダウンが始まっている。だからこそ、生理を大事にしたい感情も実はある。結婚・出産という機会がないまま、女性としての機能を閉じる可能性も大きいから。
「吸水ショーツ」、これはたかが生理用品のアイテムのひとつに過ぎない、されど生理期間を少し前向きにしてくれる大切なアイテムになった。
小さな変化を大事にしよう。僅かなことを積み重ねていこう。そうすれば、きっと「辛い」だけじゃなくなるかもしれないから。

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