お金はこわい

世の中はまさに「資産運用ブーム」。運用するほどの資産があるならともかく、株もギャンブルも、なけなしの金をはたいてやることじゃない。

大手広告代理店社員は高給取りと言われるのはなぜかというと、仕事で知り得ることの大半が重要な未公開情報だから、その社会的意味がわかるぐらいに賢い人しか雇わないよ、という前提だから。実態は別として。社員は株や先物取引は基本NGで、仕事のなんたるかを理解する初期レクチャーのレベルで先輩などから「投資とかやったらだめだよ。親兄弟にやらせてもだめだよ、クライアント企業の株はもちろん買ったりしないでね」って教えられる。証券会社でも職業が広告関係っていうと口座は開けないはずで、時代が変わってもこの本質は変わらないはずだけど、マスコミがこぞってNISAをそそのかすような昨今ではどうなのかな。

広告代理店にくる話は単にコマーシャルだけじゃない。新商品の発売や新サービスの提供もある。事業の拡大や、売却などの場合もある。企業同士の統廃合なんかだと、新社名のロゴやレギュレーションを作ったりするし、業界全体の動向も分かってしまう。それが国家間の貿易問題に触れる場合もある。政治のレベルで、どこかの国に「これ買ってくれ」って頼まれたとき、マーケットを作ることから考えなきゃいけないようなものは、広告代理店に相談が行くのはかなり昔からある。
昨今はどこの企業でも守秘義務が契約書に盛り込まれるけど、仕事で知り得た話を外で無駄に喋らないのは社会人として当たり前。たまに電車で企業や担当者の名前をモロ出しで喋ってるバカなビジネスマンがいると、面白くてつい聞き耳をたててしまう。

最近は契約やシステムに情報管理を頼りすぎで「自分に厳しい人」が減って「ルール依存症」が増えた。かつて、贈り物は一切受け取りません、物品をいただくことで発注条件に手心が加わるのはダメだから、という時代があった。確かにごもっともなんだけど、それを「虚礼廃止」という表現で返送するところも出て、虚礼の前に無礼だろうと思ったのは自分だけかな。担当者の自宅に個別に送るのはダメ、すごく高級なものもダメ、というように何がどこまでかを考えることに意味があるのに、平等という名のもとに一律に決めたがる日本のビジネス界。この思考停止状態は「理論で落としどころを探る」ことができない人ばかりの環境をうんだ。政治家の裏金も「ルールがない」のが問題ではなく、余ったお金を懐に入れたらダメに決まってるでしょうが。という話がなぜ、かき消されるのか。数年待ちのクッキーだからありがたくて銀座に持っていって喜ばれたとか聞くと、あげる方ももらう方もまだまだ野暮ったい。

6億円の送金で話題になってる通訳さんも、被害者はメガバンクのCMに出てるわけで、なかなかにヒネリのきいた話になってる。どのような犯罪になるか真っ当な話は横において、博徒はカモネギだと喜んだろうなぁと同情交じりに想像する。自分はショボい桁の話しかできないけど、職場の現金管理場所には鍵をかけていて、それは盗まれないためではなく周りのため。もし中身が足りなくても「鍵をかけてるのに盗めるはずがない」と周りが抗弁できるところを、管理がゆるいと「盗っていないことを証明」しなければならない。これはいろんな意味で簡単ではない。ましてや、もし紛失が勘違いだったとしても手遅れで、いちど生まれた疑心暗鬼は消せないし、良好な人間関係もすぐ壊れる。

逆の立場でいうと、自分が資金繰りに困ってて、ちょっと頑張ったぐらいじゃ穴埋めができないと悟ったとき、四六時中自分の横にいる人が6億円を持っていて使う予定もないと分かったらどうだろう。勝手に盗るのはありえんとして、もし切羽詰まって、にっちもさっちもいかず、そこに魔が差したら。お金では買えない人間関係であったとしても「返済のアテはないけど、100万円貸してくれ」って言っちゃうかもしれない。宝くじに当たると初めて見る親戚連中がぞろぞろ金の無心にやってくると聞くけど、お金を持っている側は特に「お金は人心を乱す」ということに自覚的であるべきだよね。大切な関係にこそキッパリと線を引くべきで、それは親子にも言える。子供がアクセスできる場所にお金を置いて使い込まれたら、それは教育うんぬんの以前の問題として、置いた親が悪いのだ。

お金とは想像以上に「思い通りにならないもの」。
お金に振り回される人生は、実はすんごくつまらない。失敗する前に気づけた人はシアワセだと思う。

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