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掌編ー鈍行ー

 田舎の町から出てきた少女は都会の街色に染まりながら、それなりの生活を繰り返していた。3ヵ月程度たった頃、彼女はひょんな出会いをした。華のキャンパスライフという魔法の言葉に対して、希望と諦めの半々の感情を持ち合わせ始めていたタイミングであったが、まだまだ捨てたもんじゃないなと少女は感じた。そして少女は盛大に恋愛をし、フラれた。故に華のキャンパスライフへの支持率は50%から0を超えて振り切り、振り切って戻らなくなった。振り切って行方不明になっていた針を探していたらあっという間に秋学期が始まる10月であった。少女は、秋学期初日にいつも通りアパート最寄り駅の南改札を抜けようとしたが、定期を忘れていたことに気がつき、致し方なくICOCAをタッチして通過した。列車に揺られながら大学の最寄駅が近づいたそのとき、ふと今の自分には規定された行先がないことに気が付いた。いつも使っている定期はアパート最寄駅南改札と大学前改札だけを結ぶものだし、田舎で電車に乗る際の切符は指定された金額内の駅にしか行けない。しかし今の少女はICカードで改札を抜けただけで行先を明示をしてはいない。ドア上の電光掲示板の指す行先はまだ見知らぬ街だし。少女は大学前の駅を寝たふりで通り過ぎた。どの駅で降りようか、もしかしたら振り切って行方不明の針があるかもしれない。そうして少女は、聞いていた音楽のボリュームを少し下げてじっと行く先を見据えたのだった。

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