高2の夏、古本屋で出会った「250万乙女のバイブル」が私の価値観を180°変えた話
高校2年生。それは人生で一番楽しかったといえる時期かもしれない。今となってはそう思える。
それまではとにかく冴えない人生を送っていた。
中学時代の私はいじめに遭い、友達と呼べる人などいなかった。
高校に入るとそれなりに友達もできて、なんとなく楽しい日々を送ってたかのように見えたのだが、ある日突然1人の女子からやっかみを受けることになり、それ以降またしばらく“ぼっち”が続いた。
なぜだろう。学生時代の私は恋愛がらみのトラブルがとにかく多かった。中学時代のいじめの原因も、すべて “それ” だ。
といっても学生時代はモテたことがない。恋多き女ではあったがすべて片思いである。
熱しやすく冷めやすい、飽きっぽい、優しくされるとすぐ好きになる。こんな性格だったせいで次から次へと好きな人は変わっていった。
それでも一度好きになると思いはどうしようもなく強く溢れ出してくるもので。
どうしたら好きな人に振り向いてもらえるのか?
どうしたら好きな人と一緒にいられるのか?
そんなことばかりを四六時中考えて、心の中だけは盛り上がっていたっけなあ。
そんな私のバイブルは少女漫画。
漫画の中では主人公は必ずハッピーエンドになってくれるから、妄想はいくらでも膨らんだ。つい自分自身がうまくいっているかのような錯覚に陥ってしまうから恐ろしい。
よく読んでいたのは「りぼん」だ。
私の世代だと椎名あゆみ先生、吉住渉先生、種村有菜先生あたりの作品はどっぷりハマって読み込んでいた。
特に種村有菜先生の「満月(フルムーン)をさがして」は中学生のころ、テレビアニメもアニメ主題歌を歌う歌手のことも全部ひっくるめて大好きになった、超絶思い入れのある漫画である。
こうしてリアルタイムで読んでいた漫画も多いのだが、私は中3になったころからブックオフがとにかく大好きで、足しげく通っては推し漫画の発掘を試みていた。
ーー北浦和のブックオフ。塾の帰りや、時には塾をサボってまで通った。りぼんコミックスあたりの立ち読み常習犯だった。
恋愛経験もない、友達もいない。少女漫画だけが生きる楽しみのようになっていた私もついにそのまま高校2年生になってしまった。
しかし高2の私はそれまでとは違う。ついに気を許せる「ともだち」ができたのだ。
性格も個性もちがった5人。なぜだろう。打ち解けるのに時間はかからなかった。
話す相手がいる。どうでもいいことで一緒に笑える相手がいる。こんな普通のことがとってもうれしくて、毎日が楽しくて仕方なかった。
そんな高2のとある夏の日。いつものようにブックオフパトロールをしていた私は、一冊の古い少女漫画を目に留めた。それが柊あおい先生の「星の瞳のシルエット」だった。この出逢いがのちに私のそれまでの人生でそなえた価値観を180°変える、真のバイブルとなる。
星の瞳のシルエットは1985年からりぼんで連載が開始された少女漫画で、コミックスは1986年から発売が開始したようだ。
1985年、私はまだ産まれていない。そんな昔の少女漫画が、これほどまでに私の心を激しく揺さぶるものだなんて、手に取ってみたときは思いもしなかった。
星の瞳のシルエットの登場人物は中学2年生。仲良し女子3人組とイケメン男子2人が見事な三角関係をくり広げていくのだが、それがなんとももどかしく切ないストーリー展開で、何度読んでも飽きなくて。私は何度涙を流したかわからない。
主人公の香澄ちゃんと久住くん。この2人、初めから両想いのくせにどういうわけか、てんで結ばれないのだ。その根本には香澄ちゃんの“友達おもい”があり、だからこそ遠回りしてしまう2人なのだが、それまでろくに友達がいなかった私には、友達を大事にしてまで自分の思いを犠牲にする香澄ちゃんの気持ちがあまり理解できなかった。
でも実際に、私にも信頼できる友達ができて、日々を友達と過ごしていく中でだんだん「友情ってなんだろう」という疑問に答えることができるようになっていった気がするのだ。
次第に香澄ちゃんの気持ちも痛いほどにわかってあげられるようになった。何度も読み返してさらに何度泣きじゃくったかなんて絶対にわからない。
この漫画のキャッチフレーズは「250万乙女のバイブル」だ。
その250万乙女の中に、まんまと入り込まされた。むしろ友達全員にぜひ読んでくれと押し付けて、みんなにもハマってもらったぐらいである。
このときはよく、恋か友情かどちらを大事にするべき?という問いを自分に投げかけ自答していた。そもそも君はそんな大層な色恋沙汰になることは一生ないので安心したまえと、あの頃の私にちくりと言ってやりたいのだが。
友達が何かもわからないポンコツすぎる、もはや人間ではなかったと思われる私が、高2になって気の合う友達と星の瞳のシルエットに出逢って、少しずつ「相手を思いやる気持ち」という技術を習得していった。確実にレベルが10以上はあがったかと思う。多分ベホイミぐらいまでは覚えられた。
これはただ「友達ができた」だけではここまでのレベルアップは不可能だっただろう。星の瞳のシルエットとの出逢いが私の人生を大きく変えたと言っても過言ではない。柊先生、本当にありがとうございます。
あのとき必死に買い揃えた単行本はすべて実家に置いてきて、20歳で家出をしたきり帰っていないし帰れない、帰ろうとも思わないため手元にはない。
しかし結婚後、ある日突然「星シル読みたい病」に襲われた私は全6巻の文庫本をAmazonで購入した。今ではいつでも読める状況にある。
何か忘れかけていた大切な感情をふつふつと思い起こさせてくれる。15年以上経った今でも私のバイブルだ。
今度久しぶりに本を開いて、香澄ちゃんに会いに行こう。
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【編集後記】
星の瞳のシルエットが何年に発売されたのか、Google先生に聞いてみました。
すると衝撃の事実が発覚!!!
「星屑セレナーデ」という星の瞳のシルエットの続編が2019年から発売されていた!?
それもまだ続いているだなんて。うそでしょ。これを知らずに星の瞳のシルエットファンを語るなんて、柊あおい先生に失礼すぎる。絶対買います!!この無礼をどうかお許しくださいませ〜〜〜〜〜!!!!!
【柊あおい先生のご紹介】
みなさんがよく知るところでいうと、柊あおい先生はジブリ映画「耳をすませば」の原作者です。宮崎駿監督が柊先生の作品を気に入り、のちに映画化されました。
これまたジブリ映画の「猫の恩返し」も原作は柊あおい先生の「バロン 猫の男爵」です。こちらは宮崎駿監督が、映画化を前提に書いてほしいと柊先生に頼んだことから生まれた作品だとされています。
「猫の恩返し」は、「耳をすませば」の作中で主人公・月島雫が書いた小説が元となっており、実質 “続編” といったジブリ映画としては新しい試みともなりました。
どちらも心温まる素敵な作品で、私も大好きです。
みなさんもぜひ、柊あおい先生の作品を手に取ってみてくださいね!
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