2023/04/08(土)のゾンビ論文 ゾンビの学術的リーダーシップって何?

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

「zombie -firm -company -philosophical」(経済学・哲学のゾンビ論文避け)
「zombie -firm -company」(経済学のゾンビ論文避け)
「zombie」(zombieの単語が入っていればなんでも)
「ゾンビ」(日本語の論文を探すため)

このうち、「zombie -firm -company -philosophical」の内容を主に紹介する。ただし、この検索キーワードできちんと経済学と哲学のゾンビ論文がよけられているか確認するために、差分を簡潔に紹介する。

今回の記事で突然「ゾンビ」という検索キーワードが出てきたが、以前設定したものの全くヒットがなかったために自分でも忘れていたものだ。滅多にヒットしないようなので、今後もたまにしか出てこないと思う。

それぞれのヒット数は以下の通り。

「zombie -firm -company -philosophical」二件
「zombie -firm -company」二件(差分ゼロ件)
「zombie」五件(差分三件)
「ゾンビ」一件

「zombie -firm -company -philosophical」の二件は情報科学、医学が一件ずつだった。また、「zombie」の差分三件のうち教育学の一件も今回のヒット数にカウントし、今回得られた論文数は三件とする。

検索キーワード「zombie -firm -company -philosophical」

冗長なシステマティック レビューの定義、害、防止

一件目。原題は「Definition, harms, and prevention of redundant systematic reviews」。掲載誌はSystematic Reviews。著者はLivia PuljakとHans Lund。

zombieの単語は以下の文字列で現れる。

"killing off zombie reviews (i. e., abandoned registered reviews)"
(ゾンビ レビュー (つまり、放棄された登録済みレビュー) を殺す)

Definition, harms, and prevention of redundant systematic reviews
本文より

レビュー。日本語に溶け込んでいるので、説明しろと言われると中々難しい単語だ。一応説明すると、出来上がったものを詳細に検討することや作品を批評することを指す。今回は「システマティックレビュー」という言葉に紐づいているらしい。

システマティックレビューの意味は次の通り。

システマティック・レビュー(英語: systematic review)または系統的レビューとは、文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うことである[2]。

システマティック・レビューWikipediaより

となれば、ゾンビレビュー(=放棄された登録済レビュー)も理解できる。くまなく調査して系統の中に組み入れたものの、詳細に検討した結果使わなくなった内容のことだろう。結果的には無駄になる調査と言っても良いはずだ。

そして、ゾンビレビューを殺すというのは、単に集めた文献を入れたレジストリからゾンビレビューを削除するだけのことらしい。論文中に以下のように書いてある。

If we could remove zombie reviews [20], i.e., abandoned reviews, from a registry such as PROSPERO, we could potentially prevent some apparent duplication, and some author teams could embark on a new systematic review without being scared off by zombies.
(PROSPEROなどのレジストリからゾンビレビュー[20]、つまり放棄されたレビューを削除できれば、明らかな重複を防ぐことができ、一部の著者チームはゾンビに怖がることなく新しい体系的なレビューに着手できる。)

Definition, harms, and prevention of redundant systematic reviews
本文より

ゾンビレビューを許すようなレビューの仕方を”冗長なシステマティックレビュー”と呼び、その害と防止を解説したのがこの論文である。研究全般に役立つことではあるが、”ゾンビレビューを殺す”手法からすると、ジャンルは情報科学。


神経内分泌前立腺癌におけるESK981の優先的な細胞毒性

二件目。原題は「Preferential cytotoxicity of ESK981 in neuroendocrine prostate cancer神経内分泌前立腺癌におけるESK981の優先的な細胞毒性」。掲載誌はCancer Research。著者はYang Zhengを筆頭著者として13名。

zombieの単語は"Zombie live/dead dye"(ゾンビ生/死色素)という文字列で現れる。要するに、細胞が死んでいるかどうかを調べるために色を付けたのである。Zombieの単語が大文字で始まっているし、名言こそされていないがZombieと名の付く試薬だと思われる。

ということで、ジャンルは医学。


検索キーワード「zombie -firm -company」(今回は差分なし)

この検索キーワードは「zombie -firm -company -philosophical」との差分を表示する。-philosophicalは「philosophicalという単語を含まない」という条件を意味するため、主に哲学のゾンビ論文が差分として表示される。

だが、今回は「zombie -firm -company -philosophical」と同じ二件だった。つまり、差分はゼロ。今回の哲学のゾンビ論文はゼロ。

検索キーワード「zombie」(差分のみ)

このキーワードでは経済学・哲学のゾンビ論文がアラートに入ってくる。

差分はあるが、すべてFaith and the Zombie: Critical Essays on the End of the World and Beyondに掲載されているものなので、割愛する。

物語、ゾンビの学術的リーダーシップ、そして現代の大学

原題:Narrative, zombie academic leadership, and the contemporary university
掲載:Discourse: Studies in the Cultural Politics of Education
著者: Steven A. Stolz
ジャンル:教育学?

内容に立ち入りたくはないのだが、「ゾンビの学術的リーダーシップ」なんて聞くとついつい興味が出てしまう。

In order to make sense of zombie academic leadership, I turn my attention to how it is cultivated in the academy by using the 'case of J', which is taken from MacIntyre's work titled, 'Social structure and their threats to moral agency'.
ゾンビの学術的リーダーシップを理解するために、学術界でこれがどのように醸成されているかに注目しました。手法として、「J のケース」というマッキンタイアの「社会構造と道徳的エージェンシーへの脅威」というタイトルの作品から引用したものを利用します。)

Narrative, zombie academic leadership, and the contemporary university
アブストラクトより

ゾンビの学術的リーダーシップを理解するためには「Jのケース」を理解する必要があり、それは論文の本文かMacIntyreの"Social structure and their threats to moral agency"を読めば理解できるようだ。

ちなみに"academic leadership"で検索すると色々出てくるが、「ゾンビの学術的リーダーシップ」の説明に使えそうな定義は書かれていない。謎である。

面白く感じたので、今回のカウントに入れておく。

国内法および判例法に対する PETL の影響 - 調査

原題:The Impact of the PETL on National Legislation and Case Law–A Survey
掲載:Journal of European Tort Law
著者: Miquel Martín-Casals
ジャンル:法学

以下の通り、単なる比喩としてzombieの単語が出てきている。

… and whether it is still necessary to continue supporting the work of the Group in its endeavours or whether this is already a dead project and the EGTL is simply a zombie that has anomalously survived after …
(グループの努力を支援し続ける必要があるのか​​、それともこれはすでに死んでいるプロジェクトであり、EGTL は単に異常な状態で生き残ったゾンビにすぎないのか。)

The Impact of the PETL on National Legislation and Case Law–A Survey
本文より

闘志・泥棒:広いサルガッソー海でのレジスタンスとミャルでの文化的盗用:小説

原題:Fighting Spirit-Thievery: Acts of Resistance in Wide Sargasso Sea and of Cultural Reappropriation in Myal: a novel
掲載:Université de GenéveのFaculty of Humanitiesに提出された修論
著者: Karen Roulin Seka
ジャンル:英文学(あるいは感想文)

映画でよくある「ゾンビという怪物は〇〇の投影である」の小説版。

検索キーワード「ゾンビ」

日本語論文でもゾンビ論文を探すために設定していた検索キーワード。中々結果が返ってこない。

市民参加型映画の出演者と鑑賞者の意識について 門真フィルムコミッション制作映画を事例として

掲載:2023年度日本地理学会春季学術大会にて報告
著者: 石原肇
ジャンル:地理学(なんで?)

地域で作った映画を通して郷土愛が深まるかを調査した研究。その映画がゾンビ映画だった、と。市役所広報課がやるような仕事に思えるが…。実験室に籠って成果を求めていた私にとっては不思議な世界だ。


まとめ

「zombie -firm -company -philosophical」では、二件中、情報科学、医学が一件ずつだった。また、「zombie」の差分三件のうち教育学の一件も今回のヒット数にカウントし、今回得られた論文数は三件とする。

検索キーワードが増えてきたうえに、「メインの検索キーワードでヒット数を数える一方で、差分を見るためだけのサブの検索キーワードでも興味があればヒット数に数える」という意味の分からない設定を追加したせいでまとめるのに苦労するようになった。これならいっそ、区別しない方が頭を使わないで済む分楽かもしれない。手間は増えるが…。

ゾンビレビューという単語はともかく、システマティックレビューという概念に出会えたのは幸運だった。私は学生時代にこういったものに触れる機会がなかったので、今からでも効率的な研究手法に触れられると嬉しい。

とはいえ、本物を扱ったゾンビ論文はなかったため、今日はヒットなし。


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