2024/1/22(火)のゾンビ論文 "equity zombie"の謎。公平性ゾンビなのか株式ゾンビなのか…?

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」

  2. 「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firms」:ゾンビ企業を扱う論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う論文を排除する

  • 「-drug/xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する

検索条件2は「-drug」と「-xylazine」の差分を見るためにある。また、検索条件1と2には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件

  2. 「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network」二件(差分ゼロ件)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」六件(検索条件2との差分は四件)

検索条件1は生物学、経済学が一件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」


欺かれたゾンビ:クモの巣グモに引き起こされた行動の変化は寄生蜂の生存率を増加させない

一件目。

原題:Deluded zombies: induced behavioral modification in a cobweb spider does not increase the survival of its parasitoid wasp
掲載:Behavioral Ecology and Sociobiology
著者:Thiago Gechel Klossを筆頭著者として、四名
ジャンル:生物学

Zatypota alborhombartaというヒメバチの一種(和名なし)は、Cryptachaea migransというクモ(こちらも和名なし)に寄生し、クモの巣の中心に糸でさなぎを作らせる。もちろんというか、寄生されたクモは死んでしまう。論文中には書かれていないが、ヒメバチはクモに卵を植え付け、ふ化した幼虫がクモの体を食い破って出てくるのだろう。

幼虫時代をクモの体内で過ごすのは安全に成長するためで、さなぎを作らせるのは生存率向上にあったと考えられていた。しかし後者は調査したら違った、という論文。

zombieの単語はタイトルにしか使われていない。寄生して、操って、最終的には殺す、というだけではゾンビと呼ぶには少々物足りないが、ゾンビを連想する気持ちは分からないでもない。タイトルに留めただけで、zombie spiderなどと呼ばない点は理性的だとも評価できる。

ジャンルは生物学としておく。


カナダのブルーエコノミーにおけるイクイティゾンビ: 公平な政策実施のための批判的フェミニスト分析

二件目。

原題:Equity Zombies in Canada's Blue Economy: A Critical Feminist Analysis for Equitable Policy Implementation
掲載:Frontiers in Marine Science
著者:Christine Knottを筆頭著者として、四名
ジャンル:経済学

タイトルのブルーエコノミーは世界銀行によれば次のように定義されている。

What is the Blue Economy?
The Blue Economy refers to the sustainable and integrated development of economic sectors in a healthy ocean.
ブルーエコノミーとは?
ブルーエコノミーとは、健全な海洋における経済セクターの持続可能かつ統合的な発展を指します。)

The World Bank "PROBLUE"より

WWFジャパン(世界自然保護基金日本支部)ではこれを「海洋生態系の健全性を維持しながら、経済成長、生計の向上、雇用のために海洋資源を持続的に利用すること」と訳している

ブルーエコノミーを達成するためには様々なやり方があるが、そのうち"ocean equity"(海の公平性)が柱のひとつとして挙げられると、この論文では述べている。そして、公平性を保つための視点に「批判的フェミニスト」が関係するらしい。これが「批判的フェミニストの観点から公平性をチェックする」なのか「批判的フェミニストが公平性に与える影響をチェックするなのか」なのかは、私の英語力では読み取れなかったが、たぶん後者だと思う。

タイトルにもある"Equity Zombies"には、論文の中身が読めないので推測でしかないが、二つの解釈がある。ひとつは、「公平性ゾンビ」と訳す場合。この場合は、おおむね「有名無実の形骸化した公平性」「公平性は半分生きていて半分死んでいる」くらいの意味だろうか。もうひとつは、「株式ゾンビ」と訳す場合。この場合は、海に関する株式会社があって、その会社がゾンビのようになっているために「株式ゾンビ企業」と呼ばれ、略して「株式ゾンビ」と呼んでいるとでも言えようか。どちらかと言えば前者であるように思う。株式会社が公平性を形骸化している場合はダブルミーニングになるので面白いが…。

ジャンルは経済学だろうか。ブルー「エコノミー」というくらいだから、たぶん、そうだ。



検索条件2「zombie -firms -philosophical -xylazine -biolegend -gender -narrative -network」(差分なし)

検索条件1との差分を調べ、「-drug」が「-xylazine」よりも論文を排除しているか確認する。

今回は差分がなかった。



検索条件3「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

5分待って: 21 世紀の天気予​​報

原題:Wait Five Minutes: Weatherlore in the Twenty-First Century
掲載:このタイトルの本がある
著者:Shelley Ingram と Willow G. Mullins
ジャンル:気象学

「-network」で排除。天気予報というか、天気に関する民間伝承や気候変動と政治を語ったりする本。気候変動の危険性をゾンビ・アポカリプスになぞらえているため、検索に引っ掛かった。


9/11以降のゴシック文学におけるバイオテロの探究:ワールド・ウォーZの研究

原題:Exploring Bioterrorism in the Post 9/11 Gothic Literature: A Study of World War Z
掲載:Human Nature Journal of Social Sciences
著者:Noor Ul Ain と Dr. Humaira Riaz、Mashalの三名
ジャンル:評論

「-gender」および「-philosophical」、「-narrative」で排除。内容はタイトルの通り。


思い出を抱きながら難しい質問をする:ケイティ・カ・ヴァン、メイ・リー=ヤン、サイムクダ・ドゥアンプーサイ・ヴォンサイへのインタビュー

原題:Holding the Memory and Asking the Hard Questions: An Interview with Katie Ka Vang, May Lee-Yang, and Saymoukda Duangphouxay Vongsay
掲載:Theatre Journal
著者:Josephine Leeを筆頭著者として、五名
ジャンル:インタビュー記事

「-gender」で排除。演劇俳優?のインタビューをし、その応答の中にzombieの単語が出てくる。ゾンビが題材の劇があるのだろう。


人生は長い悪魔祓い:マージョリー・リュウとタケダサナのモンストレスの混血レジスタンスとしての恐怖

原題:Life is a long exorcism: horror as mixed race resistance in Marjorie Liu & Sana Takeda’s Monstress
掲載:Journal of Graphic Novels and Comics
著者:Melissa Eriko Poulsen
ジャンル:評論

「-gender」および「-narrative」で排除。『モンストレス』というアメコミの評論。『モンストレス』の主人公マイカがゾンビなどのモンスターを彷彿とさせると述べているために検索に引っ掛かった。



まとめ

検索条件1は生物学、経済学が一件ずつだった。

"equity zombie"「公平性ゾンビ」という語順は実は珍しい。通常、何かがゾンビに喩えられるときは「ゾンビ〇〇」という順であることが多いからだ。たとえば、ゾンビ企業、ゾンビアリ、ゾンビアイデア、ゾンビ星、ゾンビネオリベラリズムなど。これらは「ゾンビみたいな〇〇」と意味であるからこの語順になっており、「〇〇ゾンビ」だと「〇〇みたいなゾンビ」か、よくて「〇〇を思わせるゾンビ」とゾンビが主体になってしまう。

では、公平性ゾンビが「公平性を思わせるゾンビ」かと言うと、そうではないだろう。やはり「ゾンビみたいな公平性」、つまり「半分生きていて半分死んでいる公平性」を意味するはずだ。あるいは、"equity"という単語の方に特異性があるのかというと、そんなこともなさそうだ。英辞郎ではごく普通の名詞として使われていた

本文が読めれば多少はわかるのだが、まだアブストラクトの公開のみで本文は掲載予告状態だ。かといって、本物のゾンビが出てこない論文を改めて読む気も起らない。まあ、どうせ忘れるし、謎のままにしておこう。

今回はねらいの論文がなかった。


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