見出し画像

ゾンビ論文の総括(2024年02月)


概要

2024年02月にGoogleスカラーのアラートに次の検索条件を設定して、ゾンビ論文の収集を行った。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」(メインの検索条件)

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie philosophical」

  4. 「zombie Chalmers」

各検索キーワードの意図は次の通り。単語の前にハイフンをつけると、その単語を含まないものを探す検索条件となる。

  • 「-firms」:ゾンビ企業

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビ

  • 「-drug」:ゾンビドラッグ

  • 「-network」:情報科学系の論文ならなんでも

  • 「-DDoS」:ゾンビPC

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬

  • 「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論

また、条件4の「Chalmers」は哲学的ゾンビ提唱者のDavid Chalmers博士のファミリーネームであり、条件3の「philosophical」と比較して、どちらが哲学的ゾンビをよく排除できるか確認するために設定したキーワードだった。

2月中にメインの検索条件に引っかかったゾンビ論文は14本であり、私が探している「本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文」は見つからなかった。

また、3月の検索条件を次の2つに設定する。ただし、検索条件1をメインの検索条件とする。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers」(取りこぼし確認用)

以下、2月の調査の詳細を記載する。



集計結果

まず、集計結果を示す。

2024年02月のゾンビ論文集計結果。最上行の日付はアラートメールが送られてきた日付。
ジャンルごとに集計結果が多い順にソート済

合計で14件のヒット。一月の19件からさらに減り、平均も1.2件/日未満と少なく、ゼロ件の日が五日もあった(2月3日のアラート結果は2月1日と全く同じだったため、実質ゼロ件)。ここまで減らせばアラートのチェックもほとんど苦にならない。ただ、現行の検索条件をすり抜ける学術的ゾンビは特殊な事例が多く、読解が難しくなっているように感じられる。量が減って質が上がったといったところか。

最も多かったジャンルは評論と政治学の四件で、次に社会学の二件が続く。評論はこれ以上減らすのは難しいが、政治学が多かったのは以外だったため、後で分析する。

次に、検索条件ごとのヒット数は次の通り。

2024年02月の検索条件ごとの集計結果。

取りこぼし確認用である検索条件2は51件。取りこぼし確認用の検索条件は50-60件で推移しており、普段通りと言える。検索条件1と2の差は、条件の違いである「-philosophical -drug -gender -narrative -network」の五つのキーワードがいかに強力に働いているかの証左といえよう。また、検索条件3は検索条件2と同等。やはり「philosophical」という単語は汎用性が非常に高い。大した用がなくとも使われるイメージすらある。一方で検索条件4の「Chalmers」は少ないが、後述の通りねらい通りに機能していたため、満足している。別にたくさんヒットすれば偉いわけではないので。



2月の検証結果

2月の検証内容を述べる。

  • 月の合計で30件以上のヒットがあった場合、各日で設定したジャンルを再分類する。

上述の通り、月の合計件数は14件である。したがって、この検証は不要。昨年の12月から三か月連続で30件未満であるため、すでに必要ないのかもしれない。そこで、3月以降の検証内容からこの項目を削除する


  • 哲学の論文を排除するためのキーワードとして「philosophical」と「Chalmers」の効果を比較する。

検索条件3と4との、それぞれの哲学的ゾンビヒット率を以下にまとめた。私がどのような論文を哲学的ゾンビに関する論文としたかは、各記事を確認していただきたい。(2024年02月のアラートチェック記事:第一週第二週第三集第四週第五週

2024年02月の哲学的ゾンビのヒット数およびヒット率。
各検索条件のヒット数がゼロの場合はヒット率に「-」を入力した。

合計数は検索条件4の「Chalmers」の方が多く、ヒット率も高い。したがって、「Chalmers」の方が哲学的ゾンビを排除するのに適していると言える。ただし、ヒット数では2月27日で検索条件3の方が多く、ヒット率では検索条件3の方が高い場合もあった。

しかし、そもそも私の判定が正しいか不明である。意識の哲学に関して私は素人であるから、本当は哲学的ゾンビでないものをカウントしたりその逆もあったりしたはずだ。また、ヒット率に関して言えば、当然ながら分母であるヒット数が少ないと意味もなく高い値が出ることもあるため、たとえば検索条件3で哲学的ゾンビ論文数÷ヒットした論文数=1÷1=100%の場合は無視してよい。

すると、2月13日や2月27日に限っては「Chalmers」よりも「philosophical」の方が哲学的ゾンビを引き当てる効果は高いと言える。とはいえ、総じて「Chalmers」の方がよいことには変わりなく、「そういうノイズもある」くらいに考えておけば良いだろう。むしろ、「Chalmers」が本物のゾンビを扱う論文を排除する心配が少しだけ薄れたとも考えられる。

さて、本検証により「Chalmers」が効率よく哲学的ゾンビを排除できるとわかった。そこで、取りこぼし確認用の検索条件に「-Chalmers」を追加することとした。今後は、メインの検索条件は「-philosophical」で哲学に関わる論文を排除し、取りこぼし確認用の検索条件は「-Chalmers」で哲学的ゾンビをねらって排除することができるはずだ。


  • 政治学のゾンビ論文の内訳

政治学に四件のヒットがあったため内訳を調べる。四件はまあまあ多いくらい。排除するに越したことはない。

  1. ゾンビアイデア: 政策の振り子と効果的な政策立案の課題(2月15日)

  2. 違法タバコに関するゾンビの誤った議論には、これ以上酸素を与えるべきではない(2月17日)

  3. 議会事務所、「ゾンビ」炭鉱の調査に合意(2月27日)

  4. ブクチンがブルデューと対峙するとき。フランスの「弱い」自治体主義、正統性の危機、そしてゾンビ政党(2月27日)

上から、ゾンビアイデア、ゾンビ議論、ゾンビ炭鉱、ゾンビ政党が扱われている。ゾンビ議論はゾンビアイデアの下位概念であるように思えるが、共通する単語を見つけて排除キーワードを設定することは難しそうだ。単純に考えれば「-idea」でどちらも排除できるが、単語が汎用的すぎるためどこまで排除してしまうかわかったものではない。「-argument」も汎用性が高いため不適当だ。そして、ゾンビ炭鉱やゾンビ政党はもちろん「mine」と「political party」で排除できるが、これらの単語で排除できる論文が数か月に一件レベルではうま味が少ない。

したがって、今回の政治学のゾンビ論文の結果を受け、新しく排除キーワードを設定することは控えておく。



2月の新しい学術ゾンビ

2月も新しい学術ゾンビをいくつか得ることができた。リンク先はそれぞれの紹介記事になっているので、意味を知りたければ飛んでいただきたい。

  1. "Zombie Satellites", ゾンビ衛星(2/6、天文学)約32件

  2. "zombie argument", ゾンビ議論(2/17、政治学)約1,070件

  3. "zombie reviews", ゾンビレビュー(2/17、図書館学?)約25件

  4. "semantic zombie", 意味論的なゾンビ(2/22、情報科学)約3件

  5. “zombie mines", ゾンビ炭鉱(2/27、政治学)約125件

  6. "Zombie Cyclone", ゾンビサイクロン(2/27、気象学)約2件

  7. "zombie political parties", ゾンビ政党(2/27、政治学)約4件

  8. "zombie disciplines", ゾンビ規律?(2/27、社会学)約25件

2024/03/10時点で、これらのゾンビワードがどの程度使われているか、つまり各論文の執筆者が適当に作った造語でないかを確認し、各項目の末尾にヒットした件数を記載した。確認に使ったのはまたしてもGoogleスカラー。そろそろほかの検索サイトも使うことを考えなければ。

一義的で使用頻度がそれなりにある、ゾンビ衛星、ゾンビ議論、ゾンビ炭鉱、ゾンビ規律は学術的ゾンビのリストに加えておく。ゾンビレビューはおそらくゾンビ文献とほぼ同じ意味であるし、ゾンビ規律はまだ意味をつかめていないため、追加を見送った。そして、一桁台のゾンビは掲載に値しない。

調べてみて意外だったのはゾンビ政党が約4件と思ったよりも少なかった点。「"zombie parties" political」でもたったの7件で、しかもpartyが政党という意味で使われていないケースもある。「ゾンビ政党」は日本でもよく使われているため、英語圏ではより頻度高く使われ、研究例も多いものだと思っていたのだが。

上記記事内ではみんなでつくる党(旧NHK党)と社民党がゾンビ政党と呼ばれている。政党が存在するのに所属国会議員がいない(前者はゼロ名、後者は一名)点をもってゾンビ政党と定義されているようだが、外国にはそういうケースがあまりないのだろうか。興味があるので調べておきたい。

一方で、ゾンビ炭鉱は約125件と想像よりもずっと多かった。しかし考えてみれば、炭鉱とは、石油よりも効率に劣るとはいえ石炭というエネルギー資源がまだ眠っているだろう資産である。保有している身からすれば何とかして利益につなげたいだろうし、日本では1960年代の炭鉱の閉鎖決定から経済的打撃を考慮して40年後の2002年に閉鎖が完了したというのだから、世界では閉鎖に舵を切りつつもまだ現役の炭鉱が細々と続いていても不思議ではない。しかし、細々と続けながらも実体はなく、補助金で利益を得ている炭鉱があり、それがゾンビ炭鉱であるのだが。



3月の検証

3月に行う検証は特にないが、検索条件は次の3つに設定する。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」

  2. 「zombie -firms -Chalmers -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

検索条件1がメインで確認する条件である。こちらには変更がなく、取りこぼし確認用の検索条件2に「-Chalmers」を採用した。

変更は3/1(金)以降のゾンビ論文に適用される。

以上。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?