2024/2月第四週のゾンビ論文 AIのゾンビと過去に存在しないゾンビ

本物のゾンビについて書かれた論文を探すべく、Googleスカラーのアラート機能を使い、ゾンビについて書かれた論文を収集している。

アラートの検索条件は次の通り。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie philosophical

  4. 「zombie Chalmers

「zombie」をキーワードにゾンビ論文を探しているのだが、比喩としてゾンビを使う論文も多いため、「-◯◯」で比喩としてのゾンビを扱うが論文を排除している。排除したいゾンビや論文は、以下の通り。

  • 「-firms」:ゾンビ企業

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビ

  • 「-drug」:ゾンビドラッグ

  • 「-network」:情報科学系の論文ならなんでも

  • 「-DDoS」:ゾンビPC

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬

  • 「-gender」:ジェンダー学系の論文ならなんでも

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などの評論

検索条件1には一般性の高い排除キーワードが含まれているため、それらが不必要にゾンビ論文を排除していないかを条件2で確かめる。また、検索条件3と4は「philosophical」と「Chalmers」と、どちらがより哲学的ゾンビを排除できるか見るために設定した。

今回、2/19~2/25の期間で収集し、以下の通りの論文を得た。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」二件

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」九件(検索条件1との差分は七件)

  3. 「zombie philosophical」12件

  4. 「zombie Chalmers」三件(検索条件3との差分は九件)

検索条件1は情報科学、評論が二件ずつだった。


検索条件1「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network」


「AI を理解する」: 大規模言語モデルにおける意味論的な基礎

一件目。

アラート日付:2月22日
原題:" Understanding AI": Semantic Grounding in Large Language Models
掲載:arXiv
著者:Holger Lyre
ジャンル:情報科学

タイトルの大規模言語モデルの意味は下記引用の通り。大量のデータで学習し、人間の言葉で返事をする人工知能とでもいえばよいか。

大規模言語モデル(LLM:Large language Models)とは、大量のデータとディープラーニング(深層学習)技術によって構築された言語モデルです。言語モデルは文章や単語の出現確率を用いてモデル化したものであり、文章作成などの自然言語処理で用いられています。大規模言語モデルと従来の言語モデルでは、「データ量」「計算量」「パラメータ量」が大きく異なります

株式会社 日立ソリューションズ・クリエイト『大規模言語モデル(LLM)とは? 仕組みや種類・用途など』より

この論文の主題は、大規模言語モデルを搭載した人工知能は意味を理解したうえで返事をしているのか?という点にある。その議論の中で心と言語の哲学を引き、"semantic zombie"(意味論的なゾンビ)という概念について言及している。

であれば哲学的ゾンビも扱っている、つまり"philosophical"という単語があるはずでは…?と思って単語検索したら、あった。哲学的ゾンビに直接言及しているわけではないようだが、それでよいのか、Googleスカラーのアルゴリズムは。

ジャンルは情報科学。


Go to Hell: アンダーワールドを訪れるインディーズ フィクション

二件目。

アラート日付:2月22日
原題:Go to Hell: Indie Fiction Visits the Underworld
掲載:Perspectives
著者:Arthur Smith
ジャンル:評論

タイトルの通り、地獄や悪魔を題材にしたインディーズのフィクションを紹介する記事。その中のCarlos Lacámara監督の『Eliza and the Alchemist』にゾンビが出てくるらしい。

ジャンルは評論とした。評論の域に達しておらず、正確には紹介とでも呼ぶべきもののようにも見えるが。



検索条件2「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

死んだ過去、その場しのぎ、そしてゾンビ

アラート日付:2月20日
原題:Dead Past, Ad hocness, and Zombies
掲載:Acta Analytica
著者:Ernesto Graziani
ジャンル:哲学

「-philosophical」で排除。Dead Past Growing Block時間理論という時間の認識に関する理論に関する論文。その理論の解説を引用する。

The Dead Past Growing Block theory of time—DPGB-theory—is the metaphysical view that the past and the present tenselessly exist, whereas the future does not, and that only the present hosts mentality, whereas the past lacks it and is, in this sense, dead.
(Dead Past Growing Block 時間理論 (DPGB 理論) は、未来は存在しない一方で過去と現在は時制を持たずに存在し、過去には精神性が欠けている、つまり死んでいる一方で現在だけが精神性を有している、という形而上学的な見方です。)

同論文より

 過去、G. A. Forbesという学者がDPGB理論における「過去のゾンビ」について否定的に言及したらしい。この論文の著者はForbesに反論するとのこと。


高齢者向け介護ロボット: 法的、倫理的考慮事項および規制戦略

アラート日付:2月20日
原題:Care Robots for the Elderly: Legal, Ethical Considerations and Regulatory Strategies
掲載:Developments in Intellectual Property Strategy
著者:Hui Yun Chan と Anantharaman Muralidharan 
ジャンル:法学

「-philosophical」および「-drug」で排除。タイトルの通りの内容。哲学的ゾンビを引き合いにして、人間に近い人型介護ロボットの「倫理的考慮事項」を議論するようだ。


私たちを悩ませるホラー:現代アメリカのホラー映画とテレビにおける郷愁、修正主義、そしてトラウマ

アラート日付:2月20日
原題:Horror That Haunts Us : Nostalgia, Revisionism, and Trauma in Contemporary American Horror Film and Television
掲載:このタイトルの本がある
著者:Wickham Claytonを筆頭著者として、四名
ジャンル:評論?

「-narrative」で排除。中身が読めないので内容は不明だが、Googleスカラーのメールによれば"White Zombie"の名前があったため、ホラー映画の評論系だと推測する。


父親と娘たち。または人新世の社会的再生産

アラート日付:2月20日
原題:Fathers and Daughters; or, Social Reproduction in the Anthropocene
掲載:an international joural of literature and culture
著者:Seo Hee Im
ジャンル:評論

「-narrative」および「-gender」で排除。「現代の文学や文化は、資本主義の過剰開発と環境破壊によって損なわれた現在に代わる説得力のある選択肢を提供できていない」という主張に同調し、『新感染 ファイナルエクスプレス』などを引きながら現代の社会・文化を語る。


書評:『ゾンビ襲来』ダニエル・W・ドレズナー著

アラート日付:2月22日
原題:Book Review:" Theories of International Politics and Zombies" by Daniel W. Drezner
掲載:Pakistan Review of Social Sciences (PRSS)
著者:Syed Shah Hussain
ジャンル:書評

「-network」で排除。タイトルの通り、ダニエル・ドレズナー著『ゾンビ襲来』の書評である。ゾンビを使ったキャッチーさと、真面目な国際政治の観点の二点を激賞している。私も読んだことがあるが、真面目な内容ゆえに政治学?に明るくないと読み進めるのが難しい。

ちなみに『ゾンビ襲来』は、英語の原題を"Theories of International Politics and Zombies"とし、その直訳は『国際政治とゾンビの理論』となるが、味気ないから売れなさそうではある。また、私が「本物のゾンビを扱っている(としても矛盾しない)論文・本」の筆頭でもある。そういう論文を見つけるために、日々Googleスカラーのチェックをしているのである。


ストックホルム民族学博物館のドラポ(聖なる旗)

アラート日付:2月22日
原題:The Drapó (holy flag) at The Museum of Ethnography in Stockholm
掲載:The InteractionAction Daily
著者:Tina Hamrin
ジャンル:歴史学?

「-narrative」で排除。ストックホルム民族学博物館の展示物の紹介をしており、その一環でヴードゥー今日のゾンビ人形も紹介している。


「生きた立憲主義」から「ゾンビ黙示録」まで。ヴァレリー・ゾーキン、憲法裁判所とロシアの権威主義

アラート日付:2月24日
原題:From “Living Constitutionalism” to “Zombie Apocalypse”. Valery Zorkin, the Constitutional Court and Russian Authoritarianism
掲載:Russian History
著者:Caroline von Gall
ジャンル:政治学

「-network」および「-philosophical」で排除。2020年にロシアが憲法を改正したらしい。それからいかにロシアが立憲主義を崩壊させたかを説く。何をゾンビに喩えているかはわからないが。


高校英語で燃え尽き症候群ゾンビと戦う

アラート日付:2月24日
原題:Battling Burnout Zombies in High School English
掲載:Digital Commons @ Gardner-Webb University
著者:Jennifer Gribben と Michelle Nelson
ジャンル:教育学

「-network」で排除。アメリカの学生は英語の授業で燃え尽き症候群を発現し、やる気を失ったゾンビとなってしまうらしい。学生のゾンビ化を防ぐために考案された講義?が『Battling Burnout Zombies in High School English』である。


米国のオピオイド危機が英国にも到来

アラート日付:2月24日
原題:The US opioid crisis has come to Britain
掲載:THE SPECTATOR
著者:Mary Wakefield
ジャンル:衛生学

「-drug」で排除。フェンタニルというドラッグがアメリカで社会問題となっており、その危機がイギリスにも伝播したという報告のようだ。ゾンビドラッグといえばキシラジンだが、フェンタニルもゾンビドラッグの一種なのだろうか。



「philosophical」と「Chalmers」の差分

検索条件3と4の差分を確認した。それぞれ、検索ヒット数は12件と三件で、哲学的ゾンビを扱う論文はどちらも三件だった。その三件は同じ論文だった。

哲学的ゾンビを排除するには「-Chalmers」の方が適切であるが、「-philosophical」で排除しすぎた論文も私のねらいの論文というわけでもなかった。


検索条件3(ヒット数:12件)

以下の通り、三日で12件のヒットがあった。うち、哲学的ゾンビを扱っていると思われるのは太字で示す三件だった。的中率は25%。今回はAIの意識がどうのこうのというのも哲学的ゾンビにカウントした。

まずは2月20日の分。

  1. Dead Past, Ad hocness, and Zombies (死んだ過去、その場しのぎ、そしてゾンビ)

  2. Possibility, Personal Identity, and the First-Person Perspective (可能性、個人のアイデンティティ、そして一人称視点)

  3. Can AI and humans genuinely communicate? (AIと人間は本当にコミュニケーションできるのか?)

  4. DKV-Sound-Karate in School Sports from the Student's Perspective (生徒の視点から見た学校スポーツにおけるDKV-Sound-空手)

  5. Philip Goff, Why? The Purpose of the Universe (フィリップ・ゴフ「なぜ?」 宇宙の目的)

  6. Arithmetic in the Tractatus Logico-Philosophicus (論理哲学論における算術)

  7. Fathers and Daughters; or, Social Reproduction in the Anthropocene (父親と娘たち。 または人新世の社会的再生産)

  8. Care Robots for the Elderly: Legal, Ethical Considerations and Regulatory Strategies (高齢者向け介護ロボット: 法的、倫理的考慮事項および規制戦略)

  9. Aboriginal Representation and the Canadian Art World (アボリジニの表現とカナダの芸術界)

  10. Hartmut Kliemt,“Anthony de Jasay and the Political Economy of the State”(September 2015) (ハルトムット・クリエムト「アンソニー・デ・ジャセイと国家の政治経済」(2015年9月))

項目4の「DKV-sound-karate」とはDKVという団体が作ったリズムに合わせて修練する空手のことらしい。これだけ非常に気になったので調べた。

次に、2月22日の分。

  1. "Understanding AI": Semantic Grounding in Large Language Models(「AIを理解する」: 大規模言語モデルにおける意味論的な基礎付け)

そして、2月24日の分。

  1. From “Living Constitutionalism” to “Zombie Apocalypse”. Valery Zorkin, the Constitutional Court and Russian Authoritarianism(「生きた立憲主義」から「ゾンビ黙示録」まで。 ヴァレリー・ゾーキン、憲法裁判所とロシアの権威主義)


検索条件4(ヒット数:三件)

以下の通り、三日で三件のヒットがあった。うち、すべてが哲学的ゾンビを扱っていた。的中率は100%。

まずは2月20日の分。

  1. Care Robots for the Elderly: Legal, Ethical Considerations and Regulatory Strategies (高齢者向け介護ロボット: 法的、倫理的考慮事項および規制戦略)

  2. Possibility, Personal Identity, and the First-Person Perspective (可能性、個人のアイデンティティ、そして一人称視点)

  3. Can AI and humans genuinely communicate? (AIと人間は本当にコミュニケーションできるのか?)

2月22日と2月24日にはヒットがなかった。



最後に

検索条件1は情報科学、評論が二件ずつだった。

「philosophical」と「Chalmers」の比較をしているせいか、自分の哲学的ゾンビへの感度が上がっている気がする。今回は二種類の哲学的ゾンビを確認できた。

一つ目は『「AI を理解する」: 大規模言語モデルにおける意味論的な基礎』で、「AI」という単語から哲学的ゾンビを素早く連想することができた。「意味論」の指す意味がちょっとわからなかったが、Wikipediaによると様々なジャンルの学問で扱われているようなので、順々に調べていけばそのうちわかるだろう。そして、「心の哲学」の権威であるChalmersがAIの意識にも手を出していたことを把握もできた。やはり、思いついたことをとにかくやってみるのは面白いし、ためになる。しかしそれゆえに自由時間が削られてしまうのが難点だが。

二つ目は『死んだ過去、その場しのぎ、そしてゾンビ』で、DPGB理論そのものが私の興味を引いた。以前に「過去のゾンビの存在」に触れたForbesの論文は無料で読めるので、どこまで理解できるか自信がないが、自動翻訳を使いながら無理やり読んでみたい。

いずれ哲学的ゾンビに関する解説記事も書く予定なのだが、心の哲学のゾンビに加えてAIや時間哲学?のゾンビもあるとなれば…何本書けばよいのだろうか。

今回はねらいの論文がなかった。


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