2023/12/30(土)のゾンビ論文 ナチスゾンビの分析!?

ゾンビについて書かれた論文を収集すべく、Googleスカラーのアラート機能を使っている。アラート設定ごとに、得られた論文を以下にまとめる。

アラートの条件は次の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」(取りこぼし確認用)

検索条件は次の意図をもって設定してある。

  • 「zombie」:ゾンビ論文を探す

  • 「-firm」:ゾンビ企業を扱う経済学の論文を排除する

  • 「-philosophical」:哲学的ゾンビを扱う哲学の論文を排除する

  • 「-DDoS」:ゾンビPCを扱う情報科学の論文を排除する

  • 「-xylazine」:ゾンビドラッグに関する論文を排除する

  • 「-biolegend」:細胞の生死を確認するゾンビ試薬を使う医学の論文を排除する

  • 「-gender」:ジェンダー学の論文を排除する

  • 「-narrative」:ゾンビ映画・小説などを評論する論文を排除する

  • 「-Netflix」:ネトフリ限定ゾンビドラマなどを引用する論文を排除する

  • 「-network」:とにかく情報科学の論文を排除したい

検索条件2は、最後の三つの検索キーワードがないため、これらが排除した論文がねらい通りかどうか確かめる目的がある。また、検索条件3では「-philosophical」と「-gender」という一般性の高い検索キーワードで不必要にゾンビ論文を排除していないかを確かめる。

今回、それぞれのヒット数は以下の通り。

  1. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」ゼロ件

  2. 「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」三件(差分三件)

  3. 「zombie -firm -xylazine -biolegend -DDoS」四件(検索条件2との差分は一件)

検索条件1はゼロ件だった。


検索条件1「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender -narrative -Netflix -network」(ゼロ件)

今回はヒットがなかった。



検索条件2「zombie -firm -philosophical -DDoS -xylazine -biolegend -gender」

検索条件1との差分を調べ、「-narrative」「-Netflix」「-network」が排除した論文がねらい通りだったか確認する。

有望な多標的神経保護剤としてのゾンビ真菌 (冬虫夏草) 由来のユニークな生理活性物質

原題:Unique Bioactives from Zombie Fungus (Cordyceps) as Promising Multitargeted Neuroprotective Agents
掲載:Nutrients
著者:Himadri Sharmaを筆頭著者として、四名
ジャンル:医学

「-network」で排除。私の言うところのゾンビキノコ、そのうちコルディセプス属の生理活性物質なる分泌物を調査した論文。

ゾンビキノコを扱う論文は真菌類に寄生されたアリ、つまりゾンビアリに言及するものが多いが、この論文ではキノコそのものに焦点を当てており、ゾンビ論文の中ではかなり珍しい。アリなどの昆虫に寄生するからこその"zombie fungi"のはずだが、アリ不在でゾンビキノコを語るとは。

生理活性物質の指す意味は次の通り。コルディセプス属は冬虫夏草属とも呼ばれて漢方に利用されるため、生理活性物質の調査解明が必要なのだろう。

生理活性物質とは生命現象に微量で関与し、影響を与える化合物です。ビタミンや補酵素、ホルモン、抗生物質、神経伝達物質、サイトカインなどが例として挙げられます1)。生理活性物質は主に生体機能の調節に働いており、医薬品の候補化合物としても研究が進められています。

富士フイルム和光純薬株式会社HP
『生理活性物質』より

多標的神経保護剤は…神経疾患に効く薬の一種だと思うが、「他標的」の意味がいまひとつわからない。この論文中ではアルツハイマー病やパーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった神経変性疾患に冬虫夏草の生理活性物質が効果的であると主張している。

また、多標的神経保護剤を検索すると、アルツハイマー病への効果が多く調べられているのがわかる。アルツハイマー病が「多因子進行性および不可逆的神経変性障害」であるらしいから、複数の因子に効く点が他標的であり、神経変性障害を防ぐから神経保護剤、といったところだろうか。

ジャンルは医学。人間の病気に効く化学物質に注目している点が、菌類学よりも医学に足を置いているように感じられたため。あるいは生理学でもいいかもしれない。


ナチスをぶちのめす: ゾンビから宇宙まで、素晴らしい映画文化の中でファシストの悪役を解体する

原題:PUNCHING NAZIS: DECONSTRUCTING FASCIST VILLAINS IN FANTASTIC SCREEN CULTURE FROM ZOMBIES TO OUTER SPACE
掲載:SCREEN THOUGHT
著者:Shaun Wilson
ジャンル:比較文化学

「-narrative」および「-Netflix」、「-philosophical」で排除。タイトルから想像できる通りの内容。『アイアン・スカイ』や『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』のようなトンデモナチス映画には言及がないだろう…と思ったら原題である"Iron Sky"や"Dead Snow"としてきっちり紹介されているではないか!

また、ゾンビ映画として『ショーンオブザデッド』を引き合いに出して『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』を論じる部分もある。実に興味深い。話はそれるが、日本ではナチスよりも旧日本軍が「ファシストの悪役」として描かれることが多いが、あまりゾンビはない気がする。

様々な映画を比較してナチスの描かれ方を論じているので、ジャンルは比較文化学で良いだろう。文化間の比較ではなく、ナチス映画という文化にフォーカスしている点に、「比較文化」と呼ぶには少々違和感を覚えるが。


脱植民地化と西洋人の心の閉鎖

原題:Decolonisation and the closing of the western mind
掲載:Quadrant
著者:Saul Kelly
ジャンル:社会学

「-narrative」および「-philosophical」で排除。

西洋の「お目覚め」文化、まあ平たく言えばポリコレのことだが、その文化が西洋文明を破壊し侵略しているとのこと。その様子を映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』になぞらえて論じる。

zombieの単語は次の文章で出てくる。

Doug Stokes's alarming dissection of the "woke" takeover of British universities reminds one of the Hollywood movie 'Invasion of the Bodysnatchers'.
(イギリスの大学の「お目覚め」乗っ取りに関するダグ・ストークスの憂慮すべき解析は、ハリウッド映画『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』を彷彿とさせます。)

As these zombie-like creatures busily engage in the dissemination of their toxic seed to other parts of the United States and overseas in furtherance of their takeover of the world, they point and scream if confronted by a real human being who might be trying to thwart their plans. This is a perfect metaphor for what has been happening in the Anglosphere in the last fifty years in universities, and society at large, which is destroying Western civilisation.
このゾンビのような生き物は、世界征服を進めるために、米国の他の地域や海外にその有毒な種をせわしなくばら撒いており、彼らの計画を阻止しようとする本物の人間に直面すると、指をさして叫びます。これは、過去 50 年間に英国圏の大学や社会全体で起こってきた、西洋文明を破壊していることの完璧な比喩です。)

同論文より

引用文中の「ゾンビのような生き物」とは『ボディスナッチャーズ』のモンスターのこと。しかし1956年と1978年に公開された映画『ボディスナッチャーズ』のモンスターを1968年公開の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』以降で有名になったゾンビに喩えるのはいかがなものか。『恐怖城』は1932年だけれども。

ジャンルは社会学とした。映画は引き合いにしているだけだから、評論や比較文化学はそぐわないと考えた。



検索条件3「zombie -firm -xylazine -biolegend」

上記の条件で誤ってねらいのゾンビ論文を取りこぼしていないかチェックするために、こちらの検索結果もチェックしておく。ただし、ゾンビ企業とゾンビドラッグ、ゾンビ試薬、ゾンビPCは排除されるように設定してある。

日本の吸血鬼

原題:Japanese Vampires
掲載:The Palgrave Handbook of the Vampire
著者:Colette Balmain
ジャンル:比較文化学

「-narrative」および「-gender」、「-Netflix」で排除。タイトルの通り、日本の映画に出てくる吸血鬼を分析する論文。現代の日本の吸血鬼は西洋から輸入されたものであり、狼男やゾンビ、その他の怪物と融合したものとして描かれているらしい。また、中国や日本に古来から伝わる精魂を吸う幽霊(yang-sucking ghost)との比較もある。そして、吸血鬼の具体的な描かれ方は清水崇監督の『稀人』や『樹海村』、『Best Wishes to All』を通して分析する。(『Best Wishes to All』で検索すると『みなに幸あれ』しか出てこないので、『ミンナのウタ』の間違いだと思われる。)

中々面白そうではある。



まとめ

検索条件1はゼロ件だった。

映画に出てくるナチスだけ興味を引いた。引いたが、まじめに読むほどでもないかな、という気持ちもある。結局本物のゾンビを扱った論文ではないわけだし。

今回はねらいの論文がなかった。


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