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ゾンビ論文の総括(2024年05月)


概要

2024年05月にGoogleスカラーのアラートに次の検索条件を設定して、ゾンビ論文の収集を行った。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie narrative」(さらに取りこぼし確認用)

単語の前にハイフンをつけると、その単語を含まない論文を探す検索条件となる。「zombie」でゾンビ論文を探し、「-〇〇」で不要なゾンビを検索結果から排除するというわけだ。各キーワードで排除したゾンビは次の通り。

5月中にメインの検索条件に引っかかったゾンビ論文は9本であり、私が探している「本物のゾンビを扱った(と仮定しても矛盾しない)論文」は見つからなかった。

また、6月は次の検索条件で論文を確認していく。ただし、検索条件1をメインの検索条件とする。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie narrative」(さらに取りこぼし確認用)

以下、5月の調査の詳細を記載する。



集計結果

まず、集計結果を示す。

2024年05月のゾンビ論文集計結果。最上行の日付はアラートメールが送られてきた日付。
ジャンルごとに集計結果が多い順にソート済

合計で9件のヒット。平均0.3件/日。ずっとこんな感じだと楽なのだが。

ジャンルごとのヒット数を見ても最大が菌類学の二件。二件までなら誤差の範疇であるし、合計数も10件未満と良い感じだ。言うことなし。前回追加した「-AI」のおかげだろう。詳しくは後述する。

次に、検索条件2のヒット数は次の通り。

2024年05月の検索条件2の集計結果。

取りこぼし確認用である検索条件2に引っ掛かったのは25件。検索条件1の9件と合わせても34件。「-narrative」でだいぶ減らすことができた…とも言えないのだ、これが。こちらも詳しくは後述。

最も多かったのは情報科学の五件、そして哲学、評論、教育学の三件が続く。

情報科学の五件は、第二週の『SYN Cookie のダークサイド: 有効なポート スキャン脆弱性』、『H-Louvain: ソーシャル メディア データ ストリームにおける階層型 Louvain ベースのコミュニティ検出』に、第四週の『深層学習技術を用いた映画レビューの感情分析』、そして第五週の『LTTrack: 長期的な複数オブジェクト追跡のための追跡フレームワークを再考する』と『重複する障害と完全な省略が存在する場合の最適なコンセンサス』である。私には共通項があるようには見えないため、ひとつの排除キーワードの追加でこれ以上情報科学系のゾンビ論文を減らすのは難しい。

哲学、評論、教育学の三件は、まあ、許してやろう。

最後に、検索条件3。太字で示しているのは、「-narrative」で排除する想定だったジャンルだ。

2024年05月の検索条件3の集計結果。

合計で188件。よくもまあこんな数に目を通したものだ。いやあ、しんどかった。排除想定の論文が124件で、想定していなかったも方が64件。つまり、ほかの排除キーワードとの兼ね合いもあるが、「-narrative」を使うと想定しない排除が三分の一ほど生じるということになる。三分の一程度ならば、"narrative"なんて汎用的な単語を使った割にはうまくいったのではないか。

ただ、想定こそしていなかったが「-narrative」で排除されるにふさわしいジャンルもいくつか発掘できた。ゲームデザイン学、芸術学、心理学、マルクス経済学、人文学などだ。いずれも「物語(性)」を重要視する学問である。

件数を見てみると、最も多いのが評論で42件。映画や小説のレビューであればどんな観点であっても評論に入れたため多少盛っているかもしれないが、それでも二位の社会学の20件にダブルスコアで突き放しているのは圧巻だ。次に、教育学の16件、メディア学の10件が続く。想定ではジェンダー学ももう少しヒットするはずだったのだが、たったの四件。ジェンダー学の発展にはもう物語は必要ないだろうか。

一方、想定しなかった論文の中で最も多かったのは医学の九件。続いて哲学の八件、情報科学と経済学の六件。医学系の論文は、中身を確認できた分では認知症患者がゾンビに喩えられる話が多かった。哲学は、考えてみればnarrativeという単語が使われてもおかしくない。分析の対象がどのようなナラティブを有しているかは重要な指標になるからだ。情報科学と経済学は全くの予想外だった。前者はAIと絡めて、後者は国ごとの経済を述べる際にナラティブが言及されていた。



5月の検証結果

5月の検証課題は次の三点だった。

  • 検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

  • 検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

  • 検索条件3で、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないか


検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

検索条件1は次の通り。4月までの条件に「-AI」を追加している。当然、情報科学のうちAI関連の論文を排除する目的である。

「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

「-AI」で排除できたのは次の三件。情報科学の論文はない

  1. ダイヤモンドを磨く(5/23、言語学)

  2. 「Sine Qua Non」として重要なメディア リテラシーを伝える上でのソーシャル メディアの役割を評価する。ポスト真実デジタル コンバージェンスにおけるインドにおける情報に基づく市民権の育成に対して(5/23、社会学)

  3. Sonic Vessels : 演奏家の生体情報の音楽的表現を通じた存在感の伝達(5/29、芸術学)

正直言って、こんな結果は想像していなかった。というか、そもそもAI関連のゾンビ論文が少なすぎるのではないのか。この排除キーワードを設定したときはもっと多かった印象なのだが。しかも「-AI」単体で排除できたのは『ダイアモンドを磨く』のみで、『「Sine Qua Non」として…』はほかに五つの条件で、『Sonic Vessels…』はほかに三件の条件でそれぞれ排除されている。要するに、「-AI」は役に立つタイミングもなければお役立ち度もほかの排除キーワード以下なのだ。

とはいえ、いつか役立つキーワードであることは間違いない。4月は「-AI」さえあれば三件追加で無関係なゾンビ論文を排除することができたのだ。5月の悲惨さは偶々だった可能性が残されている。とはいえ、効果も薄いのにヒットした論文が「-AI」で排除されているかどうかを探すのは手間だ。"AI"という単語がそもそも探しづらいし。ということで、あとふた月だけ追加で検証し、そこで「-AI」に効果がないとわかれば排除キーワードから外すこととする。


検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

まず、検索条件2は次の通り。4月までの条件に「-narrative」を追加している。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative

検索条件2は、メインの条件である検索条件1が本物のゾンビ論文を排除している場合に備え、検索条件1よりも緩い排除条件を設定してある。しかし、ゾンビ映画のレビュー論文があまりに多かった。そういった論文は基本的に私の求めるものではないため、緩すぎた条件を引き締めるために「-narrative」を追加したのだった。

さて、まず「-narrative」は「"narrative"という単語を含む論文を排除する」という設定なのだが、"narrative"という単語を含む論文の排除に失敗している。以下の通り、"narrative"という単語を含む論文が検索条件2でヒットしているのだ。しかのうち二件はゾンビ映画のレビューも含む。

  1. 観光世紀:バルセロナ、オーバーツーリズム、そして都市圏の空間的未来(5/13、観光学)

  2. エコフェミニズムと大量虐殺資本主義への文化的親和性: 現代ギリシャにおける墓地政治的フェミサイドの理論化(5/16、社会学)

  3. ネクロフィクションと文学的記憶の政治学(5/23、評論)

  4. 「Sine Qua Non」として重要なメディア リテラシーを伝える上でのソーシャル メディアの役割を評価する。ポスト真実デジタル コンバージェンスにおけるインドにおける情報に基づく市民権の育成に対して(5/23、社会学)

  5. 「事実性」と「規範性」の間に想定されるギャップを問う:存在論的および意味論的試行主義について(5/31、哲学)

ただ、これはGoogleの検索アルゴリズムの問題である。Googleアルゴリズムは「narrativeで排除しろとは言うけど、他の検索条件からしてこの論文は重要でしょ!」などと考えているのだ。私の落ち度ではない。本来なら排除されていた論文たちなのだ。

一方、「-narrative」では排除しえなかったゾンビ映画のレビュー論文、言い換えれば"narrative"を使わずにゾンビ映画のレビューをしていた論文も、三件だけ検索条件2に引っ掛かった。

  1. 悪魔主義者 デビッド・ウィックスとのインタビュー(5/6、評論)

  2. ジキル博士 - ジョー・スティーブンソンとのインタビュー(5/6、評論)

  3. ジョゼフ・トンダ著、クリス・ターナー訳『現代の主権者:中央アフリカ(コンゴとガボン)の権力体』(5/11、書評)

上から順に、検索条件1の「-network」、「-gender」、「-gender」で排除された。検索条件2に月三件であれば問題レベルに少ないと言えるため、効果的だったと結論しても良いだろう。次の検証課題がうまくいっていれば、引き続きこの条件を使用していく。


検索条件3で、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないかどうか

まず、検索条件3は次の通り。

「zombie narrative」

上でもすでに少しだけレビューしたが、想定通りゾンビ映画レビュー系の論文の排除に成功している。一方で想定外の排除もあったため、その中にねらいのゾンビ論文が入っていなかったか、さらに言えばねらいのゾンビ論文が入りうるかを検証する。

…はずだったのだが、正直なところ、188本のゾンビ論文を精査して自分の求めるものがあったかどうかを調べるのは大変に骨が折れる。目を通すのさえ辛かった。月の後半にはもう、「タイトルだけリストアップすればいいんじゃないか」と思ったものだ。

だがしかし、掲載元へ飛んでリンクを貼り、アブストラクトを確認し、本文中でzombieがどう扱われているかまで一通り読んだ。その経験からいえば、検索条件2の「-narrative」が本物のゾンビ論文を排除することは、今回に限れば、なかった。ただもちろん、今後も含まれないかまではわからない。確率はかなり低いと思われるが、何せ数が多い。

よって、まずは数を減らすことが肝要である。となれば、検索条件2の「-narrative」を反転させるのが良いのではないだろうか。たとえば次のような条件だ。

「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"

これならば、「-firms」で経済学、「-xylazine」で社会学/衛生学/政治学、「-biolegend」で細胞系の医学、「-DDoS」でゾンビPCを扱った情報科学、「-Chalmers」で哲学的ゾンビを扱った哲学のゾンビ論文を排除したうえで、検索条件2と比較すれば「-narrative」の効果を検証することができる。

ということで、検索条件3を「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」に変更し、検証を続行する



5月の新しい学術ゾンビ

5月も新しい学術ゾンビをいくつか得ることができた。私が過去の記事で触れた場合はリンクを貼っておいたので、意味を知りたければ飛んでいただきたい。

  1. "zombie corals", ゾンビサンゴ(5/1、海洋学)、七件

  2. "zombie development application" (zombie DA), ゾンビ開発申請(5/8、環境学)、七件

  3. "zombie self-determination", ゾンビ自決(5/11、法学)、一件

  4. "phone zombie", 電話ゾンビ(5/8、法学)、31件

  5. "zombie noun", ゾンビ名詞(5/23、言語学)、22件

  6. "digital zombie", デジタルゾンビ(5/23、社会学)、75件

  7. "zombie veggie", ゾンビ野菜(5/26、教育学)、一件

  8. "Zombie Track Re-Match", ゾンビ追跡再適合(5/27、情報科学)、一件

  9. "zombie zoology", ゾンビ動物学(5/30、動物学)、40件

2024/06/05時点で、これらのゾンビワードがどの程度使われているか、つまり各論文の執筆者が適当に作った造語でないかを確認し、各項目の末尾にヒットした件数を記載した。

全て100件未満。もう調べすぎて、頻繁に使われるゾンビ単語はすべて目撃してしまったのかもしれない。今回最もヒット数が多かったのが、デジタルゾンビの75件。次点でゾンビ動物学の40件に、電話ゾンビの31件、ゾンビ名詞の22件が続く。一件のやつは、論文の執筆者が使い始めたことを意味するため、ほぼ造語と言ってもよさそう。

"digital zombie"で検索してヒットしたゾンビ論文のサムネ文章を読むと、おおむね①ゲームや映画に出てくるゾンビ、②デジタルメディアで拡散される負の感情・言動をゾンビに喩えたもの、③デジタル媒体で再現される人工知能(≒哲学的ゾンビ)、④デジタルメディアに夢中な人間、のどれかに大別できる。記事を書いたときのデジタルゾンビは④の意味だったのだが、最もマイナーな使われ方だったようだ。あまり価値を感じないが、四つの意味をすべてゾンビ辞典に収録しておこう。

"phone zombie"も多義的な検索結果だった。解説した記事では失語症患者を指していたのだが、検索結果の大半は"smartphone zombie"(歩きスマホのこと)だった。であれば、「執筆者が勝手に言ってるだけ」と判定して辞典への収録は見送った方がよさそうだ。

ゾンビ動物学とゾンビ名詞は個人的に気に入ったので検索結果に関係なく収録する。

ゾンビ辞典と呼んでいるのは、下の記事のことだ。デジタルゾンビ、ゾンビ動物学、ゾンビ名詞を追加しておく。



6月の検証

6月は次の3つの検索条件で調査を行う。

  1. 「zombie -firms -philosophical -drug -biolegend -gender -narrative -network -AI

  2. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers -narrative」(取りこぼし確認用)

  3. 「zombie -firms -xylazine -biolegend -DDoS -Chalmers "narrative"」(取りこぼし確認用)

この3条件で、以下を検証する。

  • 検索条件1で、情報科学系のゾンビ論文を排除できるか

  • 検索条件2で、小説や映画など、フィクション作品を論じたゾンビ論文(評論・書評・文化人類学等々)を完全排除できるか

  • 検索条件2と3を比較して、「-narrative」がねらいのゾンビ論文まで排除してしまわないか確認する

条件の変更は06/05から反映される。

以上。


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